いわゆる法廷ものの作品は昔から映画のジャンルとしては定番のジャンルになります。『12人の怒れる男』など多くの名作を生み出しているジャンルでもありますね。
今回はそんな裁判をテーマにした映画の中からおすすめの作品を紹介していきます。
ステキな金縛り
唯一の証人は落ち武者の幽霊?三谷幸喜が描く前代未聞の裁判コメディ!
『ステキな金縛り』は2011年に公開された三谷幸喜監督、深津絵里、西田敏行主演のコメディ映画です。
裁判に負け続けの落ちこぼれ弁護士、宝生エミ。彼女が背水の陣で任されたのは妻を殺害した容疑の男の弁護。勝ち目は薄いかと思われた裁判ですが、男にはアリバイがありました。ただ、証明できるのは事件の夜に男に金縛りをかけていた落武者の幽霊のみ。
宝生は落武者の幽霊にアリバイを法廷で証明してくれるようにお願いするのですが…。前代未聞の幽霊の証人は法廷で認められるのでしょうか?
もともと法廷ものが好きなことでも知られる三谷幸喜監督なのですが、本作ではそこに幽霊という要素を持ち込んで、絶妙な笑いに仕上げているところが見どころです。
前作『マジックアワー』ではシリアスな役柄だったためにアドリブが禁止だったという西田敏行も、本作ではアドリブを連発。
三谷幸喜らしいコメディと感動に溢れたおすすめの作品です。
黒い司法 0%からの奇跡
無実を晴らす、冤罪事件専門の弁護士の挑戦を描いた実話
『黒い司法 0%からの奇跡』は2020年に公開されたデスティン・ダニエル・クレットン監督、マイケル・B・ジョーダン主演のドラマ映画。
冤罪事件を専門に扱う弁護士ブライアン・スティーヴンソンのもとに舞い込んできた白人女性を殺害した容疑で死刑判決を受けているウォルター・マクミリアンという黒人男性の弁護でした。ウォルターには彼が殺人を行ったという証拠は何一つありませんでしたが、検察は誘導尋問などを駆使して、彼を殺人犯に仕立て上げました。
ウォルターの無実を確信したブライアンは彼の冤罪を晴らすために奔走します。
アメリカに今も根深く息づいている人種差別の問題と、死刑制度の是非にまで踏み込んだ本作。『黒い司法 0%からの奇跡』は実話をもとにした作品でもあり、原作はブライアン・スティーヴンソンの著作『黒い司法 死刑大国アメリカの冤罪』の映画化になります。
このウォルターの事件が起きたのは1987年。まだ法の上で黒人が差別されていた1960年代ならまだしも、ここまでの露骨な冤罪事件が近年でも起きていることには驚きました。
バラク・オバマ元大統領も「2019年のお気に入り映画」の1つに本作を選んでいます。
ゆれる
兄が犯した事件は事故だったのか、殺人だったのか?
『ゆれる』は2006年に公開された西川美和監督、オダギリジョー、香川照之主演のドラマ映画です。
母の法事で久しぶりに実家に帰省した早川猛は兄の稔や幼馴染みの智恵子と再会し、法事の翌日に幼い頃に遊んでいた渓流へ向かうことに。こうして出掛けた兄の稔と弟の猛、そして幼馴染みの智恵子でしたが、猛が渓流の草木をカメラに収めているときに、智恵子が吊り橋から落下。そこにいたのは兄の稔でした。
果たして智恵子を殺したのは兄なのか?それともあれはただの事故だったのか?
裁判が進んでいくにつれて猛の心情はまさにゆれていきます。
西川美和監督のたしかな人間観察力と演出の誠実さ。
とりわけ香川照之は田舎で生きる木訥として誠実な一方で満たされない想いを抱えて生きる、複雑な兄のキャラクターを怪演とも言える圧倒的な演技力で表現しています。邦画が面白くない、苦手だと思っている人にこそ観てほしい、おすすめの映画です。
告発の行方
アカデミー賞受賞!ジョディ・フォスターの演技は必見!
『告発の行方』は1988年に公開されたジョナサン・カプラン監督、ジョディ・フォスター主演のドラマ映画です。
酒場で3人の男たちにレイプされたサラ。サラは事件は男たちからのレイプだと主張しますが、加害者の男性らは合意の上だったと無実を主張します。
事件を捜査した地方検事補キャサリンは、サラの主張を裏付ける事実を見つけられなかったため、加害者たちの合意の上だったという主張を認めざるを得なくなり、司法取引(事件を強姦事件として扱うのではなく、傷害事件として扱うこと)に応じてしまいます。
その事実をニュースで知ったサラは深く傷つきます。
レイプ事件として扱わなければ、みんな私が誘ったと思ってしまう!
事実、サラは見知らぬ男から事件のことで嘲笑を受けるなど深い苦悩を抱えていました。
そんなサラの姿を見たキャサリンはサラのためにもう一度事件に向かい合います。
キャサリンが目をつけたのは当時サラがレイプされた酒場にいた客たちでした。彼らのなかでレイプを煽った者を「暴行教唆」の罪で告発すること、そうすれば傷害罪が確定しているレイプ実行犯らにも暴行罪が追加されることになります。
こうしてサラとキャサリンは共闘して再び裁判に挑んでいきます。
サラを演じたジョディ・フォスターの素晴らしい演技力が堪能できる一本です。
ジョディ・フォスターは今作で初のアカデミー賞主演女優賞を受賞。映画自体も高く評価されています。ただ、ジョディ・フォスターによると、今作の公開当時サラがレイプされたのはサラのファッションのせいでレイプされるのは当たり前だという意見もあったそう。
今だからこそ、再び観直す意義のある作品だとも思います。
フィラデルフィア
エイズ問題を正面から扱った、ジョナサン・デミの隠れた名作
『フィラデルフィア』は1992年に公開されたジョナサン・デミ監督、トム・ハンクス主演のドラマ映画です。
大手弁護士事務所に務めていたベケットはエイズの症例のひとつであるカボシ肉腫を同僚に指摘され、エイズである疑いを持たれます。そのことが原因でベケットは担当していた案件から外され、またミスをでっち上げて解雇にまで追い込まれます。
ベケットは不当解雇だとして事務所を訴えようとしますが、エイズ患者である彼に手を貸す弁護士は中々見つかりません。
追い詰められた彼が訪れたのは法廷で戦った黒人弁護士のミラーでした。
ミラーもまたゲイやエイズへの偏見を持っていたために、一度はベケットの頼みを断ります。しかし、その後一人で図書館で調べものをするベケットと彼を避ける周りの人の様子を見て、ベケットに協力することを決意します。
今作はまだHIVに対する偏見の強かった時代を描いています。
監督のジョナサン・デミは前作の『羊たちの沈黙』で連続殺人犯をゲイの男性に設定していました。そのことがゲイへの偏見を助長するとの抗議を受けたデミ監督はこの『フィラデルフィア』でその批判に応えました。
今作には実際のエイズ患者も多く参加していますが、公開までに亡くなってしまった方もいたそうです。
弁護士のベケットを演じたのはデンゼル・ワシントンですが、ゲイ嫌いでかつエイズへの偏見を持つという、リスクのある役柄を引き受けた勇気は特筆すべきでしょう。
エリン・ブロコビッチ
史上最高額の和解金を得た女性の実話
『エリン・ブロコビッチ』は2000年に公開されたスティーヴン・ソダーバーグ監督、ジュリア・ロバーツ主演の映画です。
離婚歴2回でシングルマザーのエリン・ブロコビッチは現在無職で職探しをしている最中。その日も面接には受からないまま車を走らせていました。その時にブロコビッチの車は追突され。彼女はむち打ちになってしまいます。
「絶対勝てる」という弁護士のエド・マスリーの言葉を信じ、事故相手を訴えたブロコビッチでしたが、法廷内での暴言が減員で敗訴。
職もない彼女は無理やり弁護を担当したエドの事務所に押し掛け、自分を雇うように迫ります。
こうして無理やり職を得たブロコビッチですが、ある日彼女は整理するように頼まれた不動産関係の書類の中に住人の健康診断書が添付されているのを見つけます。
不審に思ったブロコビッチは調査を開始。不動産を買い上げたいと名乗り出ていたPG&E社の工場から有害物質が出ているのではないかとの疑惑を持ちますが…。
アメリカでは大手企業相手に史上最高額の和解金を受け取ったとして有名な女性、エリン・ブロコビッチの闘いを描いた作品です。
本作でのジュリア・ロバーツの演技はアカデミー賞やゴールデングローブ賞などあらゆる賞を受賞し、絶賛されています。
また、エリン・ブロコビッチ自身もカメオ出演しています。
テッド2
お下品コメディの傑作『テッド』の続編映画
『テッド2』は2015年に公開されたセス・マクファーレンが監督・脚本・製作を務めた。主演も前作同様にマーク・ウォールバーグとマクファーレンが務めています。
リンと結婚したテッド。次は子供がほしいと思いましたが、ぬいぐるみであるテッドは自分の子供は作れないため、養子をもらおうと考えました。
しかし、そのためにはテッドが人間として法的に認められる必要があります。
テッドとジョンはを探り、26歳の女性弁護士、サマンサに会います。
当初はあまりに若いサマンサに二人とも不安を覚えますが、サマンサがマリファナ好きであったことから意気投合。
3人は協力して、テッドに人権が認められるように奔走します。
アミスタッド
スピルバーグが描く、ある黒人奴隷の実話
『アミスタッド』は1997年に公開されたスティーヴン・スピルバーグ監督、ジャイモン・フンスー主演の歴史映画です。
19世紀に起きたアミスタッド号事件とその裁判をテーマにしています。
1839年に奴隷船であるアミスタッド号で奴隷たちによる反乱が起きました。
シンケを中心とする奴隷たちは乗組員らを殺害し、故郷へ帰ろうとしますが、生かしておいた船の操縦係の男に騙され、アメリカのニューヨークに到着します。言葉もわからないまま、シンケらは裁判にかけられます。シンケらは「荷物」として扱われ、その所有権を争点に裁判が進みますが、弁護士のボールドウィンはシンケらが故郷に帰れるように悩みながら手を尽くしていきます。
公開当時は地味な作風もあり、興行的に成功こそしませんでしたが、スピルバーグらしいリアリズムはこの映画でも健在で、映画としては高い評価を得ています。
父の祈りを
イギリス司法史上最大の汚点となった冤罪事件を描く
『父の祈りを』は1993年に公開されたジム・シェリダン監督、ダニエル・デイ・ルイス主演のドラマ映画です。
本作はイギリス司法史上最大の汚点と言われている、ギルフォード・パブ爆破事件をテーマにしています。
ギルフォード・パブ爆破事件では、実行犯として逮捕された4人、通称ギルフォード・フォーが無実であったにも関わらず、警察の強引な取り調べや証拠の隠蔽によって有罪となり、15年もの間投獄されていました。
『父の祈りを』の主人公はジェリー・コンロン。定職につかず、盗みなどで生計を立てていた素行不良のジェリーは、実家に帰ってきたタイミングの悪さから爆破事件の犯人と目され、父親も協力者として逮捕されてしまいます。
愚直に再審に向けて努力する父とは裏腹に刑務所で無為な日々を送るジェリー。
しかし、父の死によってジェリーは無罪を勝ち取る戦いに目覚めていきます。
ジェリーを演じたのはアカデミー賞主演男優賞を史上初の三度受賞したダニエル・デイ=ルイス。
本作でも独房の中で生活するなど、その並外れた役作りは健在です。