未来と言えば明るい姿を描いたものだったのが、いつからか絶望的な暗い未来を描いた、いわゆるディストピアと呼ばれるジャンルの作品も増えてきました。
今回はそんなディストピア映画の中からおすすめの作品を紹介していきます!
ブレードランナー
数多の作品に影響を与えたサイバーパンクの金字塔
『ブレードランナー』は1982年に公開されたSF映画です。監督はリドリー・スコット、主演はハリソン・フォードが勤めています。
酸性雨にまみれた、未来的でありながらも汚れた都市の描写など、サイバーパンクの先駆的な映画とも言われています。
それまでの映画の未来描写と言えば、クリーンで無機質な、いわば清潔な世界を未来としたものが多かったのですが、『ブレードランナー』は都市ではありつつも猥雑で汚れた、一つの未来の姿を映し出しました。
それは『マトリックス』や『ゴースト・イン・ザ・シェル』『イノセンス』など多くの映画に影響を与えています(全てを列挙するのは不可能と言っていいでしょう)。
『ブレードランナー』はその内容も哲学的で、それまでのSF映画とは一線を画すものとなりました。
公開当初こそその世界観は受け入れられづらいものでしたが、今ではSF映画の傑作として映画史に残る高い評価を得ている作品です。
ロボコップ
今なおカルト的な人気を誇るSFアクション映画
『ロボコップ』は1987年に公開されたSFアクション映画です。監督はポール・ヴァーホーヴェン。主演はピーター・ウェラーが務めています。
制作当時、自動車産業が没落し、犯罪率の高かった街デトロイトを近未来の犯罪都市として物語の舞台にしています(実際のロケはダラスで行われたそうですが)。
そこではマフィアであるクレメンス一味によって警察官の殉職が絶えることなく続いていました。
新しくデトロイト市警に赴任してきたマーフィーは婦人警官のアンと共にコンビを組み、クレメンスのアジトへ踏み込みますが、逆にクレメンスらによる報復を受け、瀕死の状態に。
警察の親会社でもあるオムニ社は殉死しかけていたマーフィーをロボット(ロボコップ)として蘇らせます。
当初は人間の時の記憶を抹消され、命令に忠実なロボットであったロボコップですが、次第に人間としての記憶が戻ってきます。
『ロボコップ』はポール・ヴァーホーヴェン監督の映画の中でも特に高い人気を誇る作品のひとつ。
それはSF映画、アクション映画としてのツボを押さえつつも、ヴァーホーヴェンならではの残酷描写も健在だから。
ヴァーホーヴェンは『ロボコップ』にキリストの要素を含ませています。例えばマーフィーが
僕が子供のときに、子供向け雑誌で特集されるような、本当にわかりやすい面白さもある一方で、トラウマになりかねないような残酷描写にも果敢に挑戦しています。
『ロボコップ』はカルト的な人気を得て、その後も続編やリメイクなどのシリーズが複数製作されています。
アリータ: バトル・エンジェル
続編制作の期待も熱い、SF映画の隠れた人気作
『アリータ: バトル・エンジェル』は2019年に公開されたSFアクション映画です。監督はロバート・ロドリゲス、主演はローサ・サラザールが務めています。
世界はザレムと呼ばれる選ばれた者だけが住む天空の都市と、そのザレムからのゴミで暮らす地上のスクラップシティに二極化していました。かつてザレムの住人であったイドはスクラップの中からある少女のサイボーグを見つけ出します。
イドは彼女を自宅に持ち帰り、再生することにします。目覚めた彼女は以前の記憶をすべて失っていました。イドは彼女を自分のかつての娘の名前から「アリータ」と名付けます。
アリータはある時イドの不審な行動を目撃、彼のあとを尾行します。イドのもうひとつの顔は賞金稼ぎとして犯罪者達を倒すことでした。しかし、アリータがイドを尾行したその日はイドの形勢が不利に。アリータはイドを守るために犯罪者のサイボーグたちと戦います。その中でかつて戦士であった自分の記憶が甦ってくるのでした。
やはり映像もクオリティが高く、特にモーターボールの場面は製作を務めたジェームズ・キャメロンが特にこだわった場面ということで見応えも十分。
序盤のアリータが町を散策するシーンや、人体破壊描写にはロバート・ロドリゲスらしさを感じますが、それでも強くクセが出すぎることなく上手にまとまっているのはキャメロンの力もあるのかなと感じます。
インターステラー
時間の壁の中で、それでも父は娘との約束を守る
『インターステラー』は2014年に公開されたSF映画です。監督はクリストファー・ノーラン、主演はマシュー・マコノヒーが努めています。
地球温暖化の影響で、人が住めない環境になりつつある地球。元テストパイロットのクーパーは暗号を解読し、ある施設へ娘とともに赴きます。そこにあったのは既に解散したと思われていたNASAでした。クーパーは彼らから地球に変わる居住地を見つけるプロジェクトを明かされ、その参加を打診されます。
クーパーは反対する娘に「必ず戻ってくる」と言い残し、第二の地球を見つけるために宇宙へと旅立ちます。
相対性理論に基づく時間のズレを駆使して、作り上げた複雑かつ斬新なストーリーと、一貫してそこにある父と娘のヒューマニズムが今作の大きな魅力だと思います。
時計じかけのオレンジ
スタンリー・キューブリックが送る唯一無二のカルト作
『時計じかけのオレンジ』は1972年に公開されたSF映画です。監督はスタンリー・キューブリック、主演はマルコム・マグダウェルが努めています。
全体主義のはびこる近未来のイギリスを舞台に無軌道な暴力を繰り返す若者たちの姿とその矯正を描き、暴力の本質を写し出しています。
スタンリー・キューブリック監督の代表作の一つであり、映画史に残るけっさくであることは間違いないのですが、今に至るまで映画の枠を超えてポップカルチャーやサブカルチャーを中心に強い影響を与え続けている名作です。
マトリックス
映像革命を成し遂げ、SF映画を変えた名作
『マトリックス』は1999年に公開されたSF映画です。監督は ウォシャウスキー兄弟、主演はキアヌ・リーブスが努めています。
大手のコンピュータ会社でプログラマーとして働くトーマス・アンダーソンは起きてもまだ夢を見ているような感覚に悩まされ続けていました。トーマスはネット上で「ネオ」としてあらゆるネット犯罪を犯しながら、その答えを知るためにある男を捜していました。
そして、ようやく邂逅したモーフィアスから、この世界はマトリックスと呼ばれる仮想現実世界であり、本当の世界ははるか未来、そこでは人間とAIの機械軍が戦争を行っており、本当の肉体はAIの動力源として電池のように扱われている事実を知ります。
真実を知ったネオは本当の世界で目覚め、機械軍との戦いに身を投じていきます。
バレット・タイムと呼ばれる斬新かつスタイリッシュな映像表現と、おとぎ話や哲学、宗教まで織り交ぜた複雑な世界観とストーリー設定でその後の多くの映画に大きな影響を与えた作品。
公開当時から今に至るまで個人的にベスト3には入るSF映画です。本当におすすめの一本。
トータル・リコール
その記憶は本当か、嘘か?
『トータル・リコール』は1990年に公開されたSF映画です。監督はポール・ヴァーホーヴェン、主演はアーノルド・シュワルツェネッガーが努めています。
フィリップ・K・ディックの短編小説『追憶売ります』の映画化作品になり、原作に比べて多くのアクションが追加されています。
舞台は近未来。そこでは人々は火星を植民地とし、火星に移住する人も多くいました。
建設労働者のダグラス・クエイドも「火星で暮らしたい」との思いを抱いていましたが、妻や同僚のハリーには反対され、仕方なくリコール社で「火星に旅行に行った記憶」を買うことに。
しかし、その帰り道でクエイドは何者かに襲われます。そしてクエイドは自分の本当の正体を知ることになります。
TIME/タイム
時間が唯一の価値となる近未来
『TIME/タイム』は2011年に公開されたSF映画です。監督はアンドリュー・ニコル、主演はジャスティン・ティンバーレイクが努めています。
近未来、人間の肉体的な成長は25歳で止まり、賃金の代わりに「生きられる時間」がやり取りされるようになりました。
貧困層でスラムに暮らすウィルはある時マフィアから時間を奪われそうになっている富裕層の男を助けます。ウィルは寝ている間にその男からほぼ全財産である117年という時間を受け取りますが、ウィルが目覚めると男は残り時間をほとんどなくし、橋の上で死を待っていました。
ウィルは友人に10年の時間をプレゼントし、母親の誕生日を祝おうとしますが、母親はバスの運賃が支払えず、ウィルの目の前で死亡します。
ウィルは上流階級の社会へ潜入し、カジノで更に多くの時間を得ます。
ウィルは警察に追われながらも、銀行強盗を繰り返し、奪った時間を貧しい人々に分配し、貧富の格差を少しでも是正しようとします。
永遠の若さの代わりに時間を貨幣として使うというアイデアもさることながら、現在の格差社会に対する寓話のようにも思える作品です。
Vフォー・ヴェンデッタ
全体社会に挑むテロリストを描くディストピア映画
『Vフォー・ヴェンデッタ』は2006年に公開されたSF映画です。監督はジェームズ・マクティーグ、主演は ナタリー・ポートマンが努めています。
第三次世界大戦で戦勝国となったイギリスでしたが、その内政は全体主義が蔓延し、市民の行動も制限され、秘密警察が至るところで目を光らせる監視社会。
テレビ局に務めるイーヴィー・ハモンドは夜間の外出禁止令をやむなく破り外出しているところを秘密警察に見つかります。あわや乱暴されるその時に「V」と名乗るガイ・フォークスの仮面を被った男が現れ、イーヴィーは助かりますが、Vは国家転覆を企むテロリストでした。
Vとは何者なのか。その正体はイギリスの国家そのものを揺るがす、ある秘密が隠されていました。
これに関してはあまり多くを語りたくはないですね。ため息の出るほどにカッコいい作品です。坊主頭でヒロインを熱演したナタリー・ポートマンも必見。
スターシップ・トゥルーパーズ
軍国国家をとことん皮肉ったディストピア映画
『スターシップ・トゥルーパーズ』は1998年に公開されたSF映画です。監督はポール・ヴァーホーヴェン、主演はキャスパー・ヴァン・ディーンが務めています。
軍国主義になった未来の世界で、地球外生命体である昆虫型のエイリアンとの戦いを描いています。
なんといっても軍国主義を強烈に皮肉った描写が秀逸です。
今作でもポール・ヴァーホーヴェンらしいグロテスクな描写は健在。冒頭から人体破壊描写がギャグのように続きます。
苦手な人は苦手な作風だとは思うのですが、許容できる人にとっては面白いエンターテインメント作品ではないでしょうか。
実際にナチス占領下のオランダで育ったヴァーホーヴェンは、そこらに死体が転がっているような環境で生活していたといいます。
『スターシップ・トゥルーパーズ』が描く残酷描写は恐らくヴァーホーヴェンの原風景がその根底にあるのでしょう。
軍国主義を皮肉った内容も、実際にナチスの支配を受けていたヴァーホーヴェンならではのアプローチだと思います。
デリカテッセン
食糧難のパリで供給が途切れない肉屋に隠された秘密
『デリカテッセン』は1991年に公開されたSF映画です。監督はジャン・ピエール・ジュネとマルク・キャロ、主演はドミニク・ピノンが努めています。
核戦争後のパリ。どこも食糧難にあえぐ中、常に肉を売っている不思議な肉屋を物語の舞台にしています。
そこへ職を求めて芸人のルイゾンが訪れますが、肉屋の主人は求人などしていないと言うばかり。しかし、ルイゾンの体つきを見ると、一転して雇い入れることに決めます。
こうしてルイゾンはその肉屋で働きますが、そこには主人のある思惑が潜んでいました。
ジャン・ピエール・ジュネ独特の世界観はデビュー作となる本作ですでに確立されています。
ターミネーター4
審判の日以後の世界を描く異色作にして意欲作
『ターミネーター4』は2009年に公開されたマックG監督、クリスチャン・ベール主演のSFアクション映画。
『ターミネーター』シリーズしては4作目の作品になります。
『ターミネーター3』までは審判の日以前の現代を舞台としていましたが、今作では審判の日以降の未来を舞台にしています。
核戦争によってビルや建物は朽ち果て、植物もほぼ無いような壊滅的なダメージを負った、退廃的な世界の描写が乾いた質感ともにとてもカッコよく表現されています。
結末は無理くり感の残るもので、そういった意味では確かに『ターミネーター』や『ターミネーター2』には及ばないのかもしれませんが、実質『ターミネーター2』とほぼ同じプロットだった『ターミネーター3』と比較するともう少し評価を得てもいい作品ではないかなと思います。
CASSHERN
難解だけれども、唯一無二の世界観を持ったディストピア映画
邦画にもディストピア作品は実は多くあるのではないかなと思いました。その中で真っ先に思い浮かんだのが『CASSHERN』です。
『CASSHERN』は2003年に公開された、紀里谷和明監督、伊勢谷友介主演のSFアクション映画。1970年代に放映されていたアニメ『新造人間キャシャーン』の実写映画化作品なのですが、その世界観はアニメとは全く違う、暗く厭世的なもので、作品自体はヒットしたものの、内容は賛否両論の結果となりました。
とはいえ、紀里谷和明監督の映画に一貫して流れる反戦の思想と平和へのメッセージは今作にもしっかりと反映されており、また紀里谷和明監督ならではのビジュアルも必見。サイバーパンクやスチームパンク感のある独特の視覚表現も魅力の一つです。
ベクシル 2077日本鎖国
設定のアイデアが秀逸!2077年の日本の正体とは?
『ベクシル 2077日本鎖国』は2007年に公開されたアニメ映画です。
監督は声の出演は谷原章介、黒木メイサらが務めています。
2067年、バイオテクノロジーとロボット産業の発達により、日本は世界を大きくリードする存在になりましたが、国際連合はそんな日本を危険視し、技術に対して規制をかけようとします。しかし、日本はその要求を拒み、鎖国に突入。
それから10年後、日本の大和重鋼が国際協定に違反したロボット開発を進めているとの情報をもとに、レオンとベクシルをはじめとしたアメリカ特殊部隊のSWORDが日本に潜入します。
しかし、そこで彼らが見たのは思いも寄らない日本の姿でした。
これはタイトルを目にした瞬間、衝撃でしたね。日本鎖国かと思いました。
ディストピアの表現も凄く良かったです。テクノロジーの進化と暴走が生んだディストピアとしては、ある意味最も残酷なものかもしれません。
映画の全編にわたってBOOM BOOM SATELLITESの楽曲が使用されており、音楽の面でも魅力的な映画です。
風の谷のナウシカ
宮崎駿の作家性を決定づけた、始まりにして重要作
そういえば、『風の谷のナウシカ』もディストピア映画と呼べるのではないかと思い加えてみました。
『風の谷のナウシカ』は1984年に公開された宮崎駿監督のアニメ映画です。声の出演は島本須美、納谷悟朗らが務めています。
本作もまた絶望的な未来を舞台にした作品。火の七日間とよばれる戦争によって、それまでの世界が荒廃し、文明が崩壊した後の世界を舞台にしています。
今作から宮崎駿監督のテーマの一つである、人間と自然の共生が問われており、その問いは『となりのトトロ』や『もののけ姫』に引き継がれていくことになります。