実話を元にしたおすすめジャーナリズム映画

洋画と邦画の違いは社会的なテーマの作品の多さじゃないかなと思ったりします。日本だと映画に占める社会派の作品の割合は少ないような。とりわけ、実話や実際の事件などを元にした作品はかなり少ない気がします。

その点、洋画はやはり実話を元にした社会派の作品も多く、映画というエンターテインメントを通して、社会や政治などのテーマを知る機会も多いと思うと、羨ましいとも思います。

というわけで、今回は実話を元にしたおすすめのジャーナリズム映画を紹介します!

グッドナイト&グッドラック

赤狩りを終わらせた、あるキャスターの実話の映画化

『グッドナイト&グッドラック』は2005年に公開された ジョージ・クルーニー監督、デヴィッド・ストラザーン主演のドラマ映画。

人気テレビ番組、『See it Now』のキャスターであるエドワード・R・マーロウと、赤狩りの中心人物だったジョゼフ・マッカーシーとの攻防を描き、赤狩りの終焉のきっかけとなった出来事を描いています。

エドワード・R・マーロウが最後に述べる「テレビをただの娯楽用の箱だけにしてはいけない」というのは今の時代にも通じる言葉ではないかと思います。

監督を務めたジョージ・クルーニーはアメリカがイラク戦争を始めた当時、どのメディアも政府を批判せず、追従姿勢になっていることに対して、メディアに反省を促すために本作を製作しようと思ったそうです。敢えてモノクロで製作されたヴィジュアルとも相まってとにかく硬派な作品。

昨今でもメディアの在り方は様々な場面で問題提起されつづけていますが、そういう観点からも観ておきたい、おすすめの映画です。

ニュースの真相

21世紀最大のメディア不祥事はなぜ起きたのか?

『ニュースの真相』は2015年に公開されたジェームズ・ヴァンダービルト監督、ケイト・ブランシェット主演のドラマ映画。21世紀最大のメディア不祥事と呼ばれた、ブッシュ大統領の軍歴詐称疑惑の誤報問題をテーマにしています。

この映画で面白いのは、デジタル社会になったことでファクトチェックが一般人でも可能になったことと、軍歴詐称の証拠となる書類が偽造されたものであることに関してはその通りでしたが、大衆の興味はそこに移ってしまい、そもそものブッシュの軍歴詐称そのものについて十分な論議がされなかったこと。

つまり、情報を扱う難しさと、伝えたいメッセージよりも目先のスキャンダルの方が世間の耳目を集めてしまうという皮肉。

しかし、振り返ってみれば、現代社会もそうではないかと思ってしまいます。

軍歴詐称をスクープしたジャーナリストのメアリー・メイプスはこの誤報問題でキャリアを失う結果となりました。

ハリウッドでは、ジャーナリストを英雄のように描く作品も多いですが、この作品は一歩引いた視点でジャーナリストという仕事の過酷さと危うさを見事に描いていると思います。

大統領の陰謀

ウォーターゲート事件の真実を追いかけた二人のジャーナリストの実話

『大統領の陰謀』は1976年に公開されたアラン・J・パクラ監督、ロバート・レッドフォード、ダスティン・ホフマン主演のドラマ映画。

リチャード・ニクソンのウォーター・ゲート事件を追う二人の新聞記者を描いています。

ウォーターゲートホテル内にある民主党本部に怪しい人物が侵入しているのを警備員が見つけます。当初は窃盗目的の犯行と思われていた事件でしたが、ワシントン・ポストの新聞記者、カール・バーンスタインとボブ・ウッドワードは犯人たちの状況からただの窃盗事件ではないと感じます。

上司であるベン・ブラッドリーからの後押しも受け、二人はこの事件の取材を独自に続けます。

その結果、この事件には当時のニクソン政権が深く関わっていたことが判明します。

二人は政権からの脅迫や脅しで生命まで危険が及ぶ中で、ついにウォーターゲート事件の真相を誌面で発表。それはニクソン大統領を辞任させるほどの大きな力を生み出す源流となりました。

ここでも紹介している『ペンタゴン・ペーパーズ』はいわば『大統領の陰謀』の前日譚とも言える内容で、ベン・ブラッドリーを主人公にしています。

もちろんそれぞれの映画が名作であることは間違いないのですが、二つの映画を重ねてみることで更に深く理解できるかなと思います。

ニュースの天才

全米を騙した、あるジャーナリストの実話

『ニュースの天才』は2003年のアメリカ映画。ビリー・レイが監督、ヘイデン・クリステンセンが主演を務めています。

1998年に起きた政治雑誌『ニュー・リパブリック』での捏造事件を取り上げた本作。捏造記事を作成したジャーナリストのスティーブン・グラスをヘイデン・クリステンセンが演じています。

『ニュー・リパブリック』誌の記者であったスティーブン・グラスはジャーナリストとしての高い能力と人柄のよさで高い評価を得ていました。

彼はハッカーがその後高い報酬で大企業に雇われるという内容の「ハッカー天国」という記事を書き、評判を得ますが、新しく編集長に就任したチャック・レーンが調査すると記事の中のPCメーカーやハッカーは実在せず、全てスティーブン・グラスの捏造であることが明らかになります。

今作では、ジャーナリズムの正義ではなく、むしろその危うさを啓蒙している作品です。

アメリカにおけるジャーナリストの社会的地位は日本のそれよりも高いそうで、それこそがジャーナリストをヒーローとして描いた映画が多い理由かもしれませんが『ニュースの真相』ともども、メディアの危険性、ジャーナリズムの難しさを考える時には大切な作品だと思います。

フロスト×ニクソン

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ニクソンを追い詰めたテレビ司会者の伝説のインタビューを映画化

『フロスト×ニクソン』は2008年に公開されたロン・ハワード監督、 マイケル・シーン、フランク・ランジェラ主演のドラマ映画。

1977年に行われた人気司会者のデヴィッド・フロストと元大統領であるリチャード・ニクソンのインタビューを映画化しています。もともとは舞台劇でしたが、脚本を読んだロン・ハワードが映画化を熱望。

映画の中ではニクソンのウォーターゲート事件をめぐり、どうやってニクソンに違法行為を認めさせ、国民に謝罪させるかが大きな目的になっています。

フロストはニクソンへのインタビューで彼に罪を認めさせることにより、名声を手に入れ、アメリカへ進出することを目論んでいました。一方のニクソンはインタビューを通して自らのイメージアップを図り、再び政界に返り咲くことを目指していました。

映画のメインはほぼフロストとニクソンのインタビューなのですが、両者の思惑と駆け引きが交差し合い、非常に見ごたえのあるドラマになっています。

もともとは同名の舞台が原作。数多くの争奪戦の末に、ロン・ハワードが今作の監督を務めることになりました。

インタビューが史実であることから結末はおろか、台詞すら変えることはできない中で、これだけスリリングなエンターテインメント作品に仕上げたのには驚かされます。

ちなみに、インタビュー最終日の前夜にニクソンがフロストに電話をかけるシーンがありますが、そこは創作なのだそうです。

ペンタゴン・ペーパーズ/最高機密文書

政府のウソを暴く!ジャーナリストの価値を描いた、スピルバーグの社会派映画

『ペンタゴン・ペーパーズ/最高機密文書』は2017年に公開されたスティーヴン・スピルバーグ監督、メリル・ストリープ、トム・ハンクス主演のドラマ映画です。

監督のスティーヴン・スピルバーグはこの作品に対して「これは私たちのツイートのようなものだ」とコメントしています。

公開時期はちょうどドナルド・トランプが政権を握っていた頃。自身に都合の悪い情報を「フェイクニュースだ」と決めつけるトランプのその危うさに警鐘を鳴らす意味合いがあったといいます。

ちなみにツイート(つぶやき)というコメントの通り、今作は早撮りで知られるスピルバーグの作品の中でも脚本から完成まで9ヶ月という驚異的なスピードで作られています。それだけスピルバーグの危機感も強かったのでしょう。

タイトルにもあるペンタゴン・ペーパーズとはアメリカ政府が秘匿していた、ベトナム戦争には勝てないことを示すデータのことです。これを把握しておきながら、若者を戦地に向かわせたのは政府にとっての大スキャンダルでした。

当時はまだ地方の新聞社に過ぎないワシントン・ポスト紙と政府との攻防はまさに命がけのもの。最初に紹介した『グッドナイト&グッドラック』同様、メディアの確たる信念と姿勢の在り方を考えさせられる作品です。

ちなみに先にも述べたように、このペン・ブラッドリーの部下に当たるのがリチャード・ニクソンの

SHE SAID/シーセッド その名を暴け

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ハリウッドの権力者を告発!二人の女性の勇気を描いた実話

『SHE SAID/シーセッド その名を暴け』は2022年に公開されたマリア・シュラーダー監督、キャリー・マリガン、ゾーイ・カザン主演の伝記映画です。

2017年に起きた、ワインスタイン・カンパニーのハーヴェイ・ワインスタインによる性暴力事件を勇気を持って取り上げたニューヨーク・タイムズの二人の女性記者を主人公にした作品です。

ワインスタインの性暴力やセクハラは業界内で昔から噂にはなっていましたが、ワインスタインはその絶大な権力ですべてをもみ消し、またもみ消せないものに関しては示談にして犯罪が明るみに出ないようにしていました。

そんな中でも勇気を出してワインスタインを告発した女優や、圧力に屈さずに証拠や証言を積み上げていった記者、そして彼らをサポートしていった新聞社の姿勢、まさにジャーナリズムとはかくあるべしといった作品でした。

日本でもジャニーズに関して同様の問題がありましたが、きっかけがBBCという海外の番組ということと、ほとんどのメディアが加害者の存命中には表立って批判できなかったということを思うと、日本のジャーナリズムはまだまだジャーナリストとしての覚悟が足りないのかもしれません。

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CINEMA OVERDRIVE

ロックミュージックに欠かせないエフェクター、OVERDRIVE。
それはクリーンな音に歪みを与え、それまでの音楽に新しい可能性をもたらした。
CINEMA OVERDRIVEもまた「個人的な評価」という歪みによって、映画の捉え方・楽しみ方を広げていきたい。