今回は人種差別がテーマになった映画の中でおすすめの作品を紹介していきます。
フルートベール駅で
一人の人生を描いた、地味だが秀逸な映画
『フルートベール駅で』は2014年に公開されたライアン・クーグラー監督、マイケル・B・ジョーダン主演のドラマ映画。 ライアン・クーグラーにとって本作が長編デビュー作になります。
『フルートベール駅で』は2009年1月1日に警察官によって射殺されたオスカー・グラント三世の最後の1日を描いています(オスカー・グラント射殺事件)。ライアン・クーグラーはこの事件を
ライアン・クーグラーとマイケル・B・ジョーダンは今作のあとに『クリード チャンプを継ぐ男』でブレイクすることになります。
『フルートベール駅で』は声高に人種差別を訴えかける作品ではないのですが、その分だけ、人種に関係なく、それぞれかけがえのない人生がそこにあるのだということに気づかせてくれます。
アメリカン・ヒストリーX
アメリカの闇を抉る問題作
『アメリカン・ヒストリーX』は1998年に公開された映画。監督をトニー・ケイ、主演はエドワード・ノートンとエドワード・ファーロングが努めています。
今作はネオナチの兄弟を描いた映画です。白人至上主義者である兄のデレクはそんな兄に憧れ、弟のダニーもまた白人至上主義者となっていました。
ある時兄は車泥棒をしていた黒人を射殺。刑に服すことになります。
3年後、刑務所から出所したデレクはダニーの知るかつての兄とは違う温厚で他者に寛容な人物に変わっていました。
エドワード・ノートンの圧倒的な役作りと演技力もこの作品のみどころ。
『ファイト・クラブ』では今作とは真逆の弱気なサラリーマン役だったエドワード・ノートンですが、今作では筋骨粒々のワイルドな男へと印象を全く異にするルックスへ変貌しています。
果たして刑務所の中で兄は何を経験したのか?そして、それを機にダニーの心にも変化が訪れますが―。
アメリカの闇の部分を抉ったような作品ですが、人種差別について深く考えさせられる作品ではないでしょうか。ヘイトスピーチの問題や嫌韓など、人種差別は海の向こうの話ではないと思います。映画自体は20年以上前の作品ですが、今の時代だからこそ強く響く部分があるのではないでしょうか。こちらも本当におすすめの一本です。
大統領の執事の涙
実話を元に映画化された、ある黒人執事の人生
『大統領の執事の涙』は2015年に公開された実話を元にしたドラマ映画です。
監督はリー・ダニエルズ。主演はフォレスト・ウィテカーが務めています。
リー・ダニエルズは今作を『フォレスト・ガンプ』への反論として撮ったと言います。
名作との名高い『フォレスト・ガンプ』ですが、その物語からは60年代のアラバマを描く上で本来あるべき人種差別の問題がごっそり抜け落ちています。
『大統領の執事の涙』では主人公セシルの目を通して、アメリカの人種差別の歴史をたどっていきます。
セシル・ゲインズは幼い頃から綿花プランテーションで父とともに奴隷のように働かされていました。しかし、牧場主の白人に父親を射殺されたことをきっかけにセシルは農園から脱走します。
その後、菓子店を営む黒人店主に拾われたセシルはワシントンの高級ホテルの職に就きます。その仕事ぶりからセシルはホワイトハウスの執事として働かないかという誘いを受けます。
当時の黒人としては最高位とも言える職を手に入れたセシルの目線から、歴代の大統領と時代の流れが描かれます。
今作では『フォレスト・ガンプ』では描かれない、もう一つの歴史の真実が描かれます。2本合わせて観てみるのもおすすめです。
グリーンブック
賛否両論を受けた、アカデミー賞受賞作品
『グリーンブック』は2019年に公開されたドラマ映画。
監督はピーター・ファレリー、主演はヴィゴ・モーテンセン、マハーシャラ・アリが務めています。
イタリア系の用心棒トニー・“リップ”・バレロンガと黒人の天才ピアニストドン・シャーリーの友情を描いた作品で、91回アカデミー賞では作品賞、助演男優賞、脚本賞を受賞しています。
天才ピアニストの黒人ドン・シャーリーと彼の用心棒として雇われた白人のチューリップが旅の交流を通して絆を芽生えさせていく物語です。
タイトルにあるグリーンブックとは人種差別の激しい当時の南部で黒人が安全に利用することのできる施設を集めたガイドブックのこと。
当初は黒人に対して差別的な考えを持っていたチューリップですが、ドン・シャーリーの才能と人柄に次第に自らの考えを改めていきます。
本作はアカデミー賞作品賞を受賞するなど高い評価を受ける一方で、スパイク・リーなどからは批判の声を浴びる、賛否両論の作品となりました。
グローリー/明日への行進
人種差別と戦ったキング牧師とその支持者を描く
『グローリー/明日への行進』は2014年に公開されたエイヴァ・デュヴァーネイ監督 デヴィッド・オイェロウォ主演のドラマ映画。
公民権運動の中心的人物であるキング牧師と、彼が行った1965年のアラバマ州セルマからモンゴメリーへの行進をテーマにしています。
意外なことですが、キング牧師が主役となる映画はこれが初めて。聖人視されることの多いキング牧師ですが、今作では彼の浮気や、それを盾にFBI長官のフーヴァーから脅しをうける場面など、あくまで一人の人間としてのキング牧師を描いています。
キング牧師の演説はスティーブンスピルバーグが立ち上げたドリームワークスとワーナー・ブラザースが権利を取得しており、そのために監督のエイヴァ・デュヴァーネイは原語のニュアンスを残しつつ、オリジナルのものにするために脚本の大部分を改訂したと言います。
シンドラーのリスト
ホロコーストを描いた映画の代表的作品
『シンドラーのリスト』は1993年に公開されたスティーヴン・スピルバーグ監督、リーアム・ニーソン主演のドラマ映画。
第二次世界大戦の時代、1100人ものユダヤ人をホロコーストから救った実在の実業家、オスカー・シンドラーを主人公にした作品です。
シンドラーは当初は戦争を利用して事業で儲けようとしか考えていませんでした。しかし、次第に彼の目的はユダヤ人を虐殺から救うことへシフトしていきます。
あらゆる手を使い、ユダヤ人を死を待つしかない強制収容所から逃れさせ、自社の工場で熟練工として勤務させます。
シンドラーはもともとナチス党員であり、裕福でもあり成功した人物でもあっりました。また収容所を管理するナチス党員とも飲み友達であり、様々な便宜を図ってもらうとともに、彼らに多くの賄賂さえも渡していたといます。
しかし、シンドラーは最後に「この車も売ればあと10人は救えた」と嗚咽を漏らします。
スティーヴン・スピルバーグ自身もユダヤ系の映画監督であり、本作では「血に染まった金はもらえない」と報酬の受け取りを拒否したというエピソードもあります。
ドリーム
差別に屈せず、NASAで才能を発揮した3人の黒人女性の物語
『ドリーム』は2016年に公開されたセオドア・メルフィ監督、タラジ・P・ヘンソン主演のドラマ映画。
舞台は1960年代。黎明期のNASAで働く黒人の女性たちの直面する人種差別と偉業にスポットを当てた作品です。
映画自体は面白く、やる気を出すためのモチベーションとしてもおすすめの作品なのですが、正直なところ実歳の事実とは食い違う点もあり、そこは気をつけて観なければならない部分かなと思います。もちろん映画といえどもエンターテインメントなので、そこを許容するかどうかは観る人次第かなとも思います。
42 〜世界を変えた男〜
黒人初のメジャーリーガーに降りかかる容赦無い差別
『42 〜世界を変えた男〜』は2013年に公開された、黒人初のメジャーリーガーとなったジャッキー・ロビンソンを描いた伝記映画です。
監督はブライアン・ヘルゲランド、主演はチャドウィック・ボーズマンが務めています。
作品の舞台は1947年、まだメジャーリーグが白人のためのものだった時代、ブルックリン・ドジャースのゼネラル・マネージャーのブランチ・ニッキーはニグロリーグ(有色人種専用のリーグ)でプレーしていたジャッキー・ロビンソンをチームに加えることにします。
しかしまだ人種差別が根強く残っていた時代にこのニッキーの決断はメジャーリーグとそのファンに大きな波紋を広げることとなります。
ロビンソンのもとには連日多くの脅迫文が届いていました。最初は差別に感情的になっていたロビンソンでしたが、「そやり返さない勇気を持て」というコーチの教えを受け、心無い声や差別に負けずに野球で結果を残していきます。
そして、ロビンソンの背番号42はメジャーリーグで永久欠番となります。
黒い司法 0%からの奇跡
今なお続く杜撰な裁判と人種差別
『黒い司法 0%からの奇跡』は2020年に公開されたデスティン・ダニエル・クレットン監督、マイケル・B・ジョーダン主演のドラマ映画。
冤罪事件を専門に扱う弁護士ブライアン・スティーヴンソンのもとに舞い込んできた白人女性を殺害した容疑で死刑判決を受けているウォルター・マクミリアンという黒人男性の弁護でした。ウォルターには彼が殺人を行ったという証拠は何一つありませんでしたが、検察は誘導尋問などを駆使して、彼を殺人犯に仕立て上げました。
最初はブライアンを信用していなかっただウォルターですが、ブライアンの奮闘ぶりに次第に心を開いていきます。
このブライアン・スティーヴンソンは実在の弁護士で、原作もスティーヴンソンが著した『黒い司法 死刑大国アメリカの冤罪』になります。
物語の舞台は1980年代後半のアメリカですが、その時代にあってもこれほどあからさまな差別が大々的に行われていたという事実には驚くばかり。
オバマ元アメリカ大統領も「2019年のお気に入りの映画」の一つとして本作を推しています。
ホテル・ルワンダ
「ルワンダのシンドラー」と呼ばれた男の実話
『ホテル・ルワンダ』は2004年に製作されたテリー・ジョージ監督、ドン・チードル主演の映画で、1994年に起きたルワンダ虐殺をテーマにしています。
今作は自らが支配人を務めるホテルに1200人以上を匿い、虐殺から救ったポール・ルセサバギナの実話を映画化しています。
1994年、ルワンダのツチ族とフツ族の間で虐殺が起き、80万人以上もの人々が命を思いました。
高級ホテルの支配人でたったポール・ルセサバギナは部族に関わらず、ツチ族、フツ族の難民たちをホテルに匿います。
今作では欧米を中心とした国際社会が紛争に積極的に介入しなかったために被害が拡大したことが示されます。
アフリカなど第三世界への無関心は日本も例外ではなく、『ホテル・ルワンダ』もまたそのテーマから2年以上に亘って日本国内での公開が見送られている状態でした。
主人公のポールは2020年に逮捕されますが、2023年に恩赦によって釈放されています。