『侍タイムスリッパー』大ヒットの理由とは?

概要

『侍タイムスリッパー』は2024年に公開された、 安田淳一監督、山口馬木也主演のコメディ時代劇。自主制作映画ながら驚異の人気を誇っており、2018年に大ヒットした自主製作映画『カメラを止めるな!』から「第二の『カメ止め』」とも呼ばれている。

あらすじ・ストーリー

時は幕末。会津藩士の高坂新左衛門は、京都で山形彦九郎の暗殺を命じられる。

しかし、山形との斬り合いの最中、高坂は気づくと見知らぬ町に倒れ込んでいた。

なんと高坂が目覚めたのは現代の日本の時代劇ロケの現場だった。
幕末から140年後の世界に驚く高坂。そして、高坂はひょんなことから時代劇に斬られ役として出演することに。
その演技を認められたことから、高坂は現代日本で「斬られ役」として新しいキャリアを築いていく。

感想・解説

元々本作は全くマークしていなかった。たまたまXでタイムライン上に流れてきたことが本作を知ったきっかけだ。
最初は流行りの俳優を使った、生温いコメディ映画かなと思ったが、どうやらそのイメージとは真逆の作品らしい。
しかも日に日に目に付く頻度が上がっているような気がする。これは観なければ!

タイムスリップものの映画はいまやありふれたジャンルの一つ。古くは『ある日どこかで』や『バック・トゥ・ザ・フューチャー』、最近だと『君の名は。』もその代表的な作品だと言えるだろう。
だが、それらの映画はタイムスリップものだから成功したわけではない。タイムスリップ自体が面白いのではなく、その設定をどう活かしていくのかということと、ドラマ自体の面白さも必要だろう。

今作『侍タイムスリッパー』の安田監督によると、『カメラを止めるな!』の成功を再現することも目標の一つだったそうだ。
『カメラを止めるな!』は、自主制作映画で最初は2館からの上映だったが、その面白さから全国に上映が広がり、30億円を超える大ヒットとなった。
安田監督はその成功の理由の一つが上映中の笑い声と、終わりに拍手が出るような作品であることと述べている。

それだけを聞くとシンプルで簡単なように見えるが、実際に意外とその難易度は高い。
笑いの部分で言えば、タイムスリップという設定から生まれる、時代の違いによるキャップや戸惑いを笑いに転化するのは王道中の王道だ。『侍タイムスリッパー』でもこの部分はしっかり描かれている。
だが、それだけではない。高坂が刀を握った時に否応なしに「殺陣」ではなく、「剣術」になり、斬られ役であるのに相手を斬ってしまうところも笑いどころだ。
時代劇というシチュエーションを加味することで、江戸時代の人間が現代の日本にひたすら驚くという笑いを少しひねったものが生まれている。高坂にとっては、自分の時代と似て非なるものとでも言えるだろう。
王道中の王道の笑いとシチュエーションをひねったことにより生まれる笑い、その2つが絶妙なバランスで観ているこちらを楽しませてくれる。

『侍タイムスリッパー』もわずか1館からの上映に始まり、口コミによる人気で100館を超える規模まで上映が広がった。
それはもちろん笑いだけでなく、最後に拍手という状況も実現させたからだ。
『カメラを止めるな!』では脚本そのものが異端であり、脚本の魅力がヒットの要因として大きかっただろう。
それに比べると『侍タイムスリッパー』はオーソドックスな脚本だ。しかし、必ずしも異端が毎回勝つわけではない。
ネタバレになるので詳しくは言えないが、『侍タイムスリッパー』は現代版にアップデートされた時代劇と言える。

評価・レビュー

95点

老若男女が楽しめるエンターテインメント作品だ。もちろん、それにとどまらないメッセージ性もあるが、エンターテインメントを邪魔しない程度のものになっており、説教臭さは微塵もない。

映画作りというのは残酷な仕事だと思う。人の金もかかる割には、みんなが満足する作品なんてほとんど作れはしない。ビジネスとしてある程度の成功を見込むために、マンガや小説の原作や、テレビドラマの映画化、ネームバリューのある出演者の起用などの計算も必要になる。

だが、『侍タイムスリッパー』はそんな打算的な作品ではなく、製作者の「とにかく面白い映画を作りたい」という情熱がひしひしと伝わってくる。
劇中に「頑張っていれば、どこかで誰かが見ていてくれる」という言葉があるが、まるでこの映画に関わった人々の総意を代弁しているかのようだ。

間違いなく、今観ておくべき一本だ。

作品情報・キャスト・スタッフ

2024年製作/131分/日本

監督
安田淳一

脚本
安田淳一

出演者
山口馬木也
冨家ノリマサ
沙倉ゆうの
峰蘭太郎
紅萬子
福田善晴

>CINEMA OVERDRIVE

CINEMA OVERDRIVE

ロックミュージックに欠かせないエフェクター、OVERDRIVE。
それはクリーンな音に歪みを与え、それまでの音楽に新しい可能性をもたらした。
CINEMA OVERDRIVEもまた「個人的な評価」という歪みによって、映画の捉え方・楽しみ方を広げていきたい。