『エイリアン4』生命の尊厳を問う、隠れた秀作

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概要

『エイリアン4』は1997年に公開された『エイリアン』シリーズの4作目の映画。監督は『デリカテッセン』や『アメリ』のジャン・ピエール・ジュネ、主演は今までと同じくシガーニー・ウィーバーが務めている。

あらすじ・ストーリー

前作から200年後、ウェイランド・ユタニ社はもはやなく、代わりに軍がエイリアンの軍事利用を目論んでいた。軍の実験宇宙船「オーリガ」で、宇宙刑務所に残っていたリプリーの血液からクローンが作成される。彼らの目的はリプリーの体に宿っていたエイリアン・クイーンのチェストバスターだった。

オーリガの中で育てられるエイリアンたち。従順に躾けられるかと思った矢先に彼らは自らの酸性の血液を利用して逃亡してしまう。次々と軍人たちを殺傷するエイリアン。リプリーも本能でエイリアンの脱出を感じていた。
リプリーは軍と裏取引をしていた宇宙貨物船「ベティ」のクルーらと生き残った軍人とともにエイリアンに立ち向かう。

感想・解説

『エイリアン4』は『エイリアン』シリーズの4作目。シリーズを通しても異色作と言える出来映えだ。

一般的に評価が高いのは『エイリアン』やその続編の『エイリアン2』だろう。確かに一作目はSFホラーというジャンルを確立させた映画史に残る作品でもあるだろうし、2の方はアクション映画と娘を亡くしたリプリーとニュートが擬似的な親子関係を構築するというドラマの部分でも高い評価を得ている。

ただ、個人的に最も好きなのはこの『エイリアン4』なのである。

エイリアンの恐怖は密室の恐怖とも言うべきもので、閉ざされた空間の中で一人一人殺されていくという絶望感がある。それは一作目がそうであるし、デヴィッド・フィンチャーのデビュー作として知られる『エイリアン3』も二作目のアクション路線から一作目のテイストへと原点回帰したような作品だった。

その点でいうと『エイリアン4』はアクションとホラーのバランスが素晴らしい。一作目のような密室ホラーではなく、グロテスクな描写で迫るホラーだ。このあたりは監督のジャン・ピエール・ジュネの本領発揮といったところ。
本作の残酷描写は現時点での最新作『エイリアン コヴェナント』まで含めても最も突出している。それまでは殺害場面はショットを切り替えて直接見せることは少なかったが、本作では観客を驚かせることを楽しむかのように直接的な描写が多い。
反対にジャン・ピエール・ジュネがハリウッドに合わせたのがアクション・シーンだ。ジャン・ピエール・ジュネはアクション映画の監督ではない。ブラックユーモアの利いたコメディやドラマをメインとする監督だ。そんな彼にとってハリウッドのアクションは簡単な仕事ではなかっただろう。
ジャン・ピエール・ジュネはハリウッド映画のフィルムを取り寄せ、分析したという。その成果は水没したキッチンでエイリアンと戦うシーンに如実に現れている。アクションシーンとしてはシリーズ屈指の名シーンだろう。

それ以上に私が評価したいのは生命倫理をこの『エイリアン』シリーズでとりあげた点だ。

ひとつはリプリーのクローン。ホルマリンに浸けられた幾体ものリプリーの『失敗作』とただ、生命維持装置に繋がれ理由もなく生かされるだけの7号(劇中で活躍するリプリーは8体目にして初めて成功したクローンの「8号」である)。作品中最もおぞましく、哀しいシーンのひとつだ。
ここでは『人間らしい尊厳』が問われている。
7号は自分を死なせてくれるようリプリーに頼む。その哀れさにリプリーは涙を浮かべながら放射火器を向け、ラボ全体を焼き尽くす。

もうひとつはニューボーンだ。ニューボーンはリプリーの遺伝情報を受け継ぎ、エイリアンと人間の両方の特徴を受け継ぐ新種のエイリアンだ。
生まれた直後に母に当たるクイーンを殺害し、祖母に当たるリプリーを慕う。
しかし、人間とニューボーンは共存できない。リプリーを慕ってはいるが、それ以外の存在を遊びのように殺してしまう本能があるからだ。

同じようにクローンの生命倫理をとりあげた作品に『ジュラシック・パーク』がある。ティラノサウルスに食われかけたグラント博士だが、博士はそのことを『(自らを襲ったティラノサウルスについて)肉食が本能だから仕方ない』と言う。
そう、ニューボーンの行為を責めることはできないのだ。
ただ、共存はできないから殺すしかない。リプリーは『自らを愛してくれる存在』を自らの手で殺さねばならない。断末魔の叫び声を上げるニューボーンにリプリーは涙しながら「許して」という。自分達が生き残るためにどうしてもそうせざるを得ない罪悪感がそこにはある。

ニューボーンは『エイリアン2』のニュート以来のリプリーの子供なのだ。
ただ、今回はそれが望まざる子供だったという話だ。

生命そのものに優劣がないとするならば、本能ではなく意識的にニューボーンを殺したリプリーはどうなのか。
このように広く生命のあり方を考えさせるのも『エイリアン4』の魅力ではないかと思う。

生命について根源的で深い問いを残した『エイリアン4』、個人的にはもっと評価されてもいい作品だと思うがどうだろうか。

評価・レビュー

83点

前述のように個人的には最も好きな『エイリアン』シリーズの作品だが、グロテスクな描写も多いためにこの点数に留めておく。

しかし、メッセージ性やエンターテインメント性もまた高く、『エイリアン』にはまだ新しい可能性が秘められていることを示したという意義もある。

やはりもっと評価されてもいい作品だと思う。

作品情報・キャスト・スタッフ

1997年製作/109分/アメリカ

監督
ジャン=ピエール・ジュネ

脚本
ジョス・ウィードン

主演
シガニー・ウィーバー
ウィノナ・ライダー
ロン・パールマン
ドミニク・ピノン

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ロックミュージックに欠かせないエフェクター、OVERDRIVE。
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