『エイリアン ロムルス』原点回帰した、正真正銘の「エイリアン」

概要

『エイリアン ロムルス』は2024年に公開された、 フェデ・アルバレス監督 ケイリー・スピーニー主演のSFホラー映画。『エイリアン』シリーズのスピンオフ的な作品であり、シリーズとしては7作目にあたる。
シリーズの時系列としては『エイリアン』『エイリアン2』の間に起きた出来事となる。

あらすじ・ストーリー

大破したノストラモ号の付近から隕石のようなものが回収される。それは『エイリアン』でエレン・リプリーが倒したエイリアン、「ビッグチャップ」の繭だった。その中ではビッグチャップが眠っており、こうしてエイリアンはウェイランド社に回収されたのだった。

数カ月後、人類が入植した惑星の一つ、ジャクソン・スターで採掘作業に従事するレインはアンドロイドのアンディとともに厳しい暮らしを余儀なくされていた。ジャクソンは劣悪な環境でレインの両親をはじめとして、多くの人が亡くなっていた。アンディは捨てられていたアンドロイドを再プログラムしたもので、レインを姉として、彼女の利益を最優先に動くようにプログラムされていたが、思考力などの性能は完璧とは言いづらかった。
レインはアンディとともに新天地であるユヴァーガへの移住を夢見ていたが、不当な理由により、採掘作業の契約期間は5年も延長され、絶望に沈む。

そんな中、レインの元恋人であるタイラーから連絡を受ける。タイラーは妹のケイや、友人のビヨン、ナヴァロらを集め、ある計画を提案する。
それは遺棄された宇宙ステーションの設備を盗み、ユヴァーガへ脱出するというものだった。
レインは躊躇しつつも、アンディとともに計画に参加することに。
しかし、たどり着いた宇宙ステーション「ロムルス」の冷凍睡眠ポッドにはユヴァーガに必要な燃料は残っていなかった。また、ロムルスの中にはボロボロの状態で放置されたアンドロイドなどがあり、そこで以前「何か」が起きたことを強く示していた。
燃料を求めて船内をさまようタイラーらは、知らぬ間に船内で保管されていたフェイスハガーを目覚めさせてしまう。

感想・解説

待ち望んだ『エイリアン』が帰ってきた

『エイリアン』シリーズといえば、言わずと知れたSFホラーの名作だ。オリジナルの『エイリアン』はリドリー・スコット、続編はジェームズ・キャメロンやデヴィッド・フィンチャー、ジャン=ピエール・ジュネなど、錚々たる面々が監督に名を連ねている。

リドリー・スコットは直近の2作『プロメテウス』、『エイリアン コヴェナント』でも監督を務めたが、スコットの興味はすでにゼノモーフにはなく、AI(アンドロイド)の側にあるようだ。
『エイリアン コヴェナント』ではむしろゼノモーフ自体は添え物であり、物語の強大な悪役として存在するのはアンドロイドのディヴィッドだ。

ただ、こうしたリドリー・スコットの考える『エイリアン』シリーズの方向性はファンから好意的に受け止められたとは言い難い。
『プロメテウス』『エイリアン コヴェナント』は時系列で言えば『エイリアン』の前日譚に当たるのだが、本来の計画では『コヴェナント』と『エイリアン』の間をつなぐもう一本の映画(『エイリアン アウェイクニング』)が製作されるはずであった。
しかし、『コヴェナント』の成績不振により、その計画は頓挫してしまう。
そして『コヴェナント』以来7年ぶりの新作となったのが『エイリアン ロムルス』だ。

ポスターはフェイスハガーが人間の顔に張り付いたショッキングなものだが、その一方でこれこそが『エイリアン』だ!と言いたくなる、まさに会心の出来だった。
作品のあらゆる部分にこれまでの『エイリアン』シリーズからの引用やメタファーを感じられる作りになっており、かつ、それらがバランスよく収まっているのも素晴らしかった。

今作の登場人物は何のスキルもない若者たちだ。
劣悪な環境下で大企業の支配の元、働かねばならない彼らの姿は現在の格差社会や、GAFAなどの大企業の姿とも重なってくる。
そんな彼らが新天地への望みをかけて遺棄された宇宙ステーション「ロムルス」に乗り込むのだが、その希望は絶望へと変わる。
それはアンドロイドのせいではなく、フェイスハガーや、ゼノモーフのせいだ。

リドリー・スコットは『エイリアン』シリーズへなかなか復帰しなかった理由を「『エイリアン』が怖くなくなってしまったから」と述べていた。確かに『エイリアンvsプレデター』まで言ってしまうと、ホラーというよりもただのモンスターのドンパチ映画に堕してしまった感さえ漂う(監督のポール・アンダーソンは『エイリアン2』が大好きとのことで、アクションエンターテインメントの作風になっても無理はないのだが)。

だが、今作は原点回帰と言っていい。かつてリドリー・スコットはゼノモーフについて「あの怪物は調理済みだ」とそれ以上深掘りする魅力がないことを示唆していたが、『エイリアン ロムルス』はゼノモーフの設定が以下に完璧であったかということを示している。
いきなり襲いかかるフェイスハガー、胸を突き破るチェストバスターと、強酸性の血液。
1作目の『エイリアン』から何も変わらない要素だが、武器も何も持たない若者には十分な恐怖だろう。そこには黒幕としてのAIの存在は不要だ。

今作はシリーズの中でもとりわけ1作目の『エイリアン』との親和性が高いが、アッシュと同型のアンドロイドの登場と、リプリーが宇宙空間に投げ出した個体(ビッグチャップ)のその後が描かれているのもファンにはたまらないだろう。
個人的にはインターフェイスなどのガジェットデザインが、最先端のものではなく〚エイリアン〛のものを引き継いでいることが印象的だった。時系列としては過去の話になる〚プロメテウス〛などは未来的なインターフェイスのデザインだったため、矛盾が生じてしまいそうだが、貧しい若者たちは型の古い宇宙船やデバイスを使っているのだと考えればそう矛盾はしなくなってくる。このことからすると、〚エイリアン〛のエレン・リプリーらも決してエリートなどではなく、むしろ下位の労働者に近かったのではないかという想像もできる。

〚プロメテウス〛や〚コヴェナント〛が描いた神話性(ロムルスとはローマ神話においてローマ市を作り上げた兄弟の兄の名前だ)、『エイリアン2』におけるエンターテインメント性、『エイリアン3』の閉鎖性、『エイリアン4』の意外性、その全ての要素が『エイリアンロムルス』には詰まっている。スピンオフというには惜しい、『エイリアン』映画だ。

評価・レビュー

92点

〚ロムルス〛の公開初日に映画館へ行ったのだが、『エイリアン』シリーズ最新作というのに、スクリーンは小規模なものだった。
無理もない。シリーズが盛況だったのは80年代から90年代にかけてだろう。
その上『プロメテウス』を純粋な『エイリアン』映画とするには厳しい。となると『エイリアン4』から『コヴェナント』までは20年間のブランクがあったことになる。
若い世代にしてみれば、「名前を聞いたことのある映画」くらいなものだろう。
だが、〚ロムルス〛はそのことをもったいないと思わせてくれるほどの良作だと思う。

作品情報・キャスト・スタッフ

2024年製作/119分/アメリカ

監督
フェデ・アルバレス

脚本
フェデ・アルバレス
ロド・サヤゲス

原作
ダン・オバノン
ロナルド・シャセット

製作
リドリー・スコット
マイケル・プラス
ウォルター・ヒル

製作総指揮
フェデ・アルバレス
エリザベス・カンティロン
トム・モラン
ブレント・オコナー

出演者
ケイリー・スピーニー
デヴィッド・ジョンソン
アーチー・ルノー
イザベラ・メルセード
スパイク・ファーン
アイリーン・ウー

>CINEMA OVERDRIVE

CINEMA OVERDRIVE

ロックミュージックに欠かせないエフェクター、OVERDRIVE。
それはクリーンな音に歪みを与え、それまでの音楽に新しい可能性をもたらした。
CINEMA OVERDRIVEもまた「個人的な評価」という歪みによって、映画の捉え方・楽しみ方を広げていきたい。