概要
『アミスタッド』は1997年に公開されたスティーヴン・スピルバーグ監督、ジャイモン・フンスー主演の歴史映画
1839年にスペインの奴隷輸送船で起こった奴隷たちの反乱事件である「アミスタッド号事件」を取り上げている。
第70回アカデミー賞で助演男優賞、撮影賞、作曲賞、衣装デザイン賞の4部門にノミネートされた。
あらすじ・ストーリー
アフリカで村を襲ったライオンを倒したことでむらの英雄となったシンケだが、ある時奴隷商人たちによって狩られ、奴隷船に詰め込まれる。劣悪な環境で奴隷たちが次々に命を落としていく中で、シンケらは反乱を起こし、奴隷商人たちを皆殺しにする。
感想・解説
スティーヴン・スピルバーグはユダヤ系のアメリカ人だ。娯楽映画のイメージが強かったスピルバーグだが、『シンドラーのリスト』によってシリアスなドラマも描ける名監督にそのイメージは変わっていった。
彼にとって、自身のルーツでもあるユダヤ人のホロコーストは避けては通れないテーマでもあったのだろう。スピルバーグは『シンドラーのリスト』の後にも人種差別をテーマにした作品を撮っている。
その一つが1997年に公開された『アミスタッド』だ。本作は奴隷制度に焦点を当てた作品で、1839年に起きたアミスタッド号事件を取り上げている。興味深いのは『アミスタッド』のメインは奴隷たちの反乱ではなく、裁判だということだ。シンケら奴隷として連れてこられた黒人たちは裁判を通じて法的にも自由を得ることを求める。
『アミスタッド』の公開は1997年だが、その16年後の2013年にスピルバーグは『リンカーン』を撮っている。タイトル通りにエイブラハム・リンカーンを主役にした映画だが、その中身はアメリカ合衆国憲法修正第13条を下院でどう可決させるかという内容で、リンカーンの業績として有名な「奴隷解放宣言」はこの映画には登場しない。映画の中で「コンパスは目的地を指してくれるが、そこまでの道中にどんな困難があるかは教えてくれない」とリンカーンは語る。
奴隷解放宣言という目標を掲げただけは何も変わらない。それに効力を持たせるには法改正という地道で困難な実行の過程が不可欠だ。
『アミスタッド』も同様だ。反乱では暴力では真の自由は獲得できない。
映画においてはしばしば暴力はエンターテインメントとして描かれる。それは明確な「見せ場」となるだろうし、それも否定はしない。しかし、それは見方を変えれば暴力の肯定であり、黒人たちを支配した奴隷商人となにも変わらない。だからこそ反乱という暴くではなく、公正かつ公平に争う裁判が『アミスタッド』の中心になっているのだろう。そこにスピルバーグの誠実さを感じるのは私だけだろうか。
評価・レビュー
93点
同年に公開されたエンターテインメント大作映画『ロストワールド』の影に隠れてしまい、あまり顧みられていない映画のようにも思うが、翌年の『プライベート・ライアン』に繋がる社会派映画の良作だと思う。奴隷として、「モノ」として扱われる悲劇を遠慮せずに描いているのはまさにスピルバーグの真骨頂とも言える。やや重い内容の作品だが、観てみる価値は充分ある。
作品情報・キャスト・スタッフ
1997年製作/154分/アメリカ
監督
スティーヴン・スピルバーグ
脚本
デイヴィッド・H・フランゾーニ
主演
ジャイモン・フンスー
マシュー・マコノヒー
アンソニー・ホプキンス