『キャッチ・ミー・イフ・ユー・キャン』天才詐欺師の実話を元に描く「父と子」の愛情

概要

『キャッチ・ミー・イフ・ユー・キャン』は2003年に公開された。1960年代に「天才詐欺師」と言われたフランク・W・アバグネイル・Jrを描いた作品だ。
タイトルの『キャッチ・ミー・イフ・ユー・キャン』とは日本語で「鬼さんこちら」の意味であり、「できるもんなら捕まえてみろ」というニュアンスがある。

あらすじ・ストーリー

 

感想・解説

両親が離婚した子供

スピルバーグの映画には一貫したテーマがある。それは両親が離婚した子供に向けて作られた作品だということだ。スピルバーグ自ら「私の映画は両親が離婚した子供に向けて作られたものだ」と発言している。
またスピルバーグ自身も両親の離婚を経験している。

今作『キャッチ・ミー・イフ・ユー・キャン』は実在の元詐欺師フランク・W・アバグネイルをテーマにした作品だ。
スピルバーグの作品に登場する子供は両親が離婚しているという設定が多い。『ジュラシック・パーク』のアレックスとティム、『宇宙戦争』のロビーとレイチェルもそうだろう。
今作『キャッチ・ミー・イフ・ユー・キャン』の家族もまた離婚している。

主人公であるフランクの父親は成功した経営者であったが、事業に失敗し離婚せざるを得なくなる。若いフランクはその事実に耐えきれず、衝動的に家を飛び出してしまう。
この幸せな家庭の崩壊、両親の離婚はフランクのトラウマとなって、彼の人生に深い影を落とす。

フランクのトラウマ

フランクが犯罪に手を染めていったのは、まだ16歳という年齢で一人で生きていかねばならなかったこと、そして父親以上に成功して再びかつての家族の暮らしを取り戻したいという願いがあった。
社会的地位と収入の高い職業に自分を偽り、FBIの追求をひらりとかわす。それは私たちの目には痛快に映るが、その裏で常に家族の温かみに飢えている様子も垣間見える。

映画の中では医師として潜り込んだ先で出会ったと結婚するために実力で弁護士試験に合格したというエピソードも描かれているが、この事からも心の中では真っ当な暮らしの中で父親に認められたいという想いを抱き続けていることがわかる。

もう一人の父親

『キャッチ・ミー・イフ・ユー・キャン』にはもう一人の父親というべき人物が登場する。それがフランクを逮捕するために奔走するFBI捜査官のカール・ハンラティだ。彼は執拗にフランクを追い詰める一方で、彼が子供であり、両親の愛情に飢えていることもわかっている。また彼は離婚経験者でもあり、同じ家族の愛情を失った者としてフランクもカールには心を許せる部分が生まれてくる。カール・ハンラティは実在の人物ではなく、ジョー・シアをはじめとしたフランクとかかわった複数の捜査官をモデルにした架空の人物だ。
『キャッチ・ミー・イフ・ユー・キャン』はそういった意味では事実に忠実な伝記映画ではないが、代わりに描かれるのはフランクが再び社会の中で愛情を見つけるまでの物語だ。

「君を追うものは誰もいないよ」果たしてフランクを追っていたのは何だったのか。警察?捜査官?いやそれは言い知れぬ孤独だったのかもしれない。
スピルバーグはフランクの中に幼い頃の自分自身を見いだしていただろう。両親の離婚、そして身分を偽ってユニバーサル・スタジオに潜り込み、監督としてのキャリアをスタートさせるというのもフランクの半生と重なる部分がある。

 

評価・レビュー

80点

犯罪をテーマにした映画だとどうしてもサスペンス寄りになってしまうが、スピルバーグはフランクの幼さと孤独を軸にヒューマニズム溢れるエンターテインメントとして完成させた。

フランクを追いながらも一方で彼を案じ、救いの手をさしのべるFBI捜査官のカール・ハンラティを演じたトム・ハンクスもこの映画の温かさに多大な貢献を果たしたと言えるだろう。

作品情報・キャスト・スタッフ

2002年製作/141分/アメリカ

監督
スティーヴン・スピルバーグ

脚本
ジェフ・ナサンソン

主演
レオナルド・ディカプリオ
トム・ハンクス

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CINEMA OVERDRIVE

ロックミュージックに欠かせないエフェクター、OVERDRIVE。
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CINEMA OVERDRIVEもまた「個人的な評価」という歪みによって、映画の捉え方・楽しみ方を広げていきたい。