「面白いつまらない」ではない!『シビル・ウォー アメリカ最後の日』の本当の観方

概要

『シビル・ウォー アメリカ最後の日』は2024年に公開されたアレックス・ガーランド監督、キルスティン・ダンスト主演の戦争映画。アメリカが内戦になったら?という設定の作品だ。

あらすじ・ストーリー

専制的な大統領と連邦政府から、アメリカの19の州が離脱。アメリカは内戦状態に陥っていた。大統領は国民へ向けて「勝利は目前だ」とテレビで訴えても、ジャーナリストからの取材は14カ月も受けていない。

伝説的な戦場カメラマンのリー・スミスは大統領への取材を試みるために、同じくジャーナリストのジョエルと、彼女たちの師であるサミーとともに、ニューヨークを出発し、首都のワシントンDCを目指すことに。

しかし翌朝メンバーの中に新人ジャーナリストのジェシーも加わっていた。彼女の存在を訝しがるリーだが、ジョエルいわく、昨日バーで盛りがって参加を許したのだという。

かくして4人は内戦の最前線であるワシントンDCを目指す。

長い旅の途中でリー達は内戦の現実に巻き込まれてゆく。

感想・解説

予告編を観ただけでも、とてもハリウッド的な作品だと思う。

劇中に登場する大統領は金髪に赤ネクタイ。合衆国憲法で定められている2期までの大統領任期を3期務めたり、FBIを解散させたりとやりたい放題だ。実際にトランプも任期の撤廃を目指したことがある。

つまり、『シビル・ウォー』はトランプが大統領選挙で再選したらどうなるかの最悪のシナリオを描いた作品でもあるのだ。

リー達のワシントンDCまでの旅はまさに、地獄めぐりと呼ぶにふさわしい。

興味深いのは兵士たちがどちらの陣営に属しているのかすら説明されないこと。今作はジャーナリストという非戦闘民が戦争の真っ只中に飛び込んでいく物語たが、それは一般人が戦争に巻き込まれる時と似ているかもしれない。

『シビル・ウォー』の感想を観ていると、派手な撃ち合いを期待して、「面白くなかった」との声もあるようだ。また今作の終わり方についてもそう感想を持たれてしまう要因はある。

だが、今作は面白かった、つまらなかったではなく、体感できるかどうかだ。

例えば『プライベート・ライアン』の冒頭20分間、オマハビーチでの戦いを面白いと思う人はあまりいないだろう。だがその迫力や衝撃はとてつもないものではなかったか。

『シビル・ウォー』もそうだ。これは面白いとかつまらないてまはなく、感じるかどうかの映画だ。監督のアレックス・ガーランドはとにかくエンターテインメントよりも観客を不快にさせることにこだわっているように思う。

鋭く冷たく耳に響く銃声。残酷な場面で唐突に流れるポップミュージック。特に銃声は通常のアクション映画で行う、低音を足すという加工を行わず、リアルな音を追求している。

そして、敵か味方かもわからない兵士たち。特に、「お前はどんな種類のアメリカ人だ?」と問いかける場面(予告編でも登場する場面だ)は主人公らとともに私たちまで恐怖せずにはいられない。

『シビル・ウォー』はそういった意味では、戦争映画とは言っても、『ランボー』シリーズのような痛快さはほぼない。ただ、人が人を殺す。その冷酷さ、残酷さ、過酷さがひしひしと伝わってくる。

評価・レビュー

88点

久しぶりに怖い戦争映画を観た気分だ。地獄のロードムービーだが、ここでジャーナリストを主人公にするのは興味深い。

監督のアレックス・ガーランドはイギリス出身だ。その分今のアメリカ社会を客観的に見ることができるだろう。そして、そういう意味では、内戦を客観的に取材していくジャーナリスト達はガーランド自身の投影なのではないか(余談だが、ガーランドの父もジャーナリストだったという)。

彼らの目から見た内戦の凄まじさ。そこにはもう法律も人権も何も無い無法地帯だ。

ガーランドは今の社会でジャーナリストの地位が低下していることを危惧して、『シビル・ウォー』の主人公をジャーナリストにしたという。

アメリカにはジャーナリズムを取り上げた骨太で素晴らしい映画作品が多くあるが、そもそも日本とアメリカではジャーナリストの社会的な地位が違う(アメリカの方がジャーナリストの地位が高い)のはもちろん、信念をもって取材しているジャーナリストが確かに存在するからだろう。

彼らが最も過酷な内戦の最前線へ向かう中でどう変わっていくのかという視点からも今作はとても興味深い。

それは戦争の狂気はどのように人を蝕んでいくのかということでもある。

そういえば『シビル・ウォー』のキャッチコピーは、「あなたが目撃するのはフィクションなのか、明日の現実なのか」だった。

さすがに明日『シビル・ウォー』が現実になることはないにしても、分断の萌芽に私たちはすでに慣れてしまっているのではないかとも思う。

特定の国を差別したり、特定の政治家を貶したり、まるで自分が何かの免罪符を持っているかのように振る舞ってはいないだろうか。

アメリカでもし、内戦が始まったら。それは身近なそういうものが原因であったかもしれないのだ。

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