『シンクロナイズド・モンスター』オスカーではない、アン・ハサウェイが本当に戦った相手とは?

概要

『シンクロナイズド・モンスター』は1995年に公開されたナチョ・ビガロンド監督、アン・ハサウェイ主演のコメディ映画というか怪獣映画?ちょっと分類しにくいジャンルの映画だ。

あらすじ・ストーリー

都会でウェブライターとして働くグロリアは書いた記事が炎上してしまう。それが原因で会社もクビになってしまい、さらにはアルコール依存が原因で恋人のティムからも別れを切り出されてしまう。

すべてを失ったグロリアは地元へと帰郷する。そこで幼なじみのオスカーと再会し、グロリアは彼が営むバーで働くことになるが、酒が身近にある環境でグロリアのアルコール依存は進むばかりだった。

ある時、グロリアは酔っ払って公園の砂場に足を踏み入れる。

その頃、韓国のソウルでは突如巨大な怪獣が現れる。ソウルで甚大な被害を出した怪獣だが、後日グロリアは怪獣の動きと砂場での自分の動きがシンクロしていることに気づき、怪獣の正体が自分自身だと気づく。

感想・解説

今日(2024年3月26日)のニュースでアン・ハサウェイが干されかかっていたときに、クリストファー・ノーランに救われたと語った記事を見た。

2010年代のはじめにアン・ハサウェイ叩きは社会現象にすらなっていた。アン・ハサウェイとヘイトを組み合わせた「ハサヘイト」という造語すら作られ、彼女を非難する者たちは「ハサヘイター」と言われた。

なぜそれまでにアン・ハサウェイは嫌われたのだろうか?

アン・ハサウェイと言えば、『プリティ・プリンセス』や『プラダを着た悪魔』、『マイ・インターン』など、彼女の出演作は日本でも人気だ。

2012年のミュージカル映画『レ・ミゼラブル』では丸刈りにする度胸と歌唱力を見せつけ、ゴールデングローブ賞やアカデミー賞の助演女優賞を受賞し、名実ともにハリウッドのトップ女優となった。

だが、授賞式でのスピーチが「わざとらしく」「芝居がかっている」と観る人をイラつかせてしまった。

美貌はもちろん、スタイル、才能、全てにおいてアン・ハサウェイは完璧だった。だからこそ、嫌われやすい素質は整っていたのだ。完璧過ぎたのだ。

大衆から嫌われる女優が売上に貢献できるはずもない。アン・ハサウェイが映画から干されかけたというのはビジネスの論理からいけば当然と言えば当然と言えた。

そんな彼女が再びヒロインとして起用されたのが2015年に公開されたクリストファー・ノーラン監督の『インターステラー』だ。アン・ハサウェイ個人は無冠に終わるも、作品自体はアカデミー賞の視覚効果賞を始めとしていくつもの賞を受賞した、2010年代を代表するSF映画になった。

その翌年にアン・ハサウェイが主演したのがこの『シンクロナイズド・モンスター』だ。

作品自体はちょっと不思議でコミカルな怪獣モノ。怪獣が敵でも味方でもなく、『ジョジョの奇妙な冒険』で言うところのスタンドのようにアン・ハサウェイの分身であるのが面白い。

さて、本作でアン・ハサウェイが演じるのは書いたコラム記事が炎上し、私生活もボロボロになって田舎へ帰ってきたウェブライターのグロリア。

この設定がハサヘイターに苦しめられていたアン・ハサウェイ自身の投影に思えるのは偶然ではないだろう。

アン・ハサウェイは今作で初めて製作総指揮も兼任している。作品への思い入れやこだわりも人一倍強いはずだ。

今作で、アン・ハサウェイ演じるグロリアが戦うのは自らに嫉妬したオスカーという幼馴染。田舎にグロリアが帰ってきた当初は彼女の職の面倒を見たりと優しく接してくれるのだが、グロリアが他の男と仲良くなるごとにグロリアへの思いは嫉妬へと変わっていったのだ。

そこにハサヘイターとの共通点を見てしまうのは私だけだろうか。

後にアン・ハサウェイは自身が嫌われ者になっていた時期について、次のようにコメントしている。

「私のことを世界がどう思っているのかは私には関係ない。他の人が私をどう扱うかは私とは関係ない。

でももし誰かが言ったことが響いたときには、自分のためにそれを取り入れた。そういう意味では成長する上でたくさんの近道が得られたと思う。

自分で選んでそういうことを経験したわけではないけれど、それに感謝している」

そう、まさに『シンクロナイズド・モンスター』それを体現したような作品だ。

『シンクロナイズド・モンスター』はアン・ハサウェイの堂々たるハサヘイターへの決別宣言なのだ。

評価・レビュー

74

『シンクロナイズド・モンスター』を何も知らずに観れば、「アン・ハサウェイ主演の少し変わった怪獣映画」程度の感想しかなかったかもしれない。

しかし、それまでのアン・ハサウェイの置かれた状況を観れば、この映画がそれだけの作品でないことがわかる。

その映画の背景を見ていくと、作品の評価もガラッと変わることがある。

これも映画鑑賞の醍醐味ではないだろうか。

作品情報・キャスト・スタッフ

2017年製作/110分/カナダ・スペイン

監督
ナチョ・ビガロンド

脚本
ナチョ・ビガロンド

主演
アン・ハサウェイ
ジェイソン・サダイキス

>CINEMA OVERDRIVE

CINEMA OVERDRIVE

ロックミュージックに欠かせないエフェクター、OVERDRIVE。
それはクリーンな音に歪みを与え、それまでの音楽に新しい可能性をもたらした。
CINEMA OVERDRIVEもまた「個人的な評価」という歪みによって、映画の捉え方・楽しみ方を広げていきたい。