『しん次元! クレヨンしんちゃん THE MOVIE 超能力大決戦 〜とべとべ手巻き寿司〜』

概要

『しん次元! クレヨンしんちゃん THE MOVIE 超能力大決戦 〜とべとべ手巻き寿司〜』は2023年に公開された大根仁監督、小林由美子主演のアニメ映画。

あらすじ・ストーリー

派遣社員としてティッシュ配りをしている非理谷充は友人も恋人も家族も金もなく、ただ自身の報われない境遇を恨みながら生活している。そんな彼の唯一の生き甲斐はアイドルだった。しかし、非理谷はサラリーマンから因縁をかけられ、更には強盗事件の犯人と間違われて警察にも追われる。

非理谷は、闇の光を受けて超能力と悪の心に目覚めてしまう。非理谷は街中で爆発事件を起こしたり、ふたば幼稚園で立てこもり事件を起こすなど、「無敵の人」として振る舞っていく。

感想・解説

毎年公開されるアニメ映画の定番といえば、『名探偵コナン』『ドラえもん』『クレヨンしんちゃん』くらいだろう。

個人的にその中で一番好きなのは『クレヨンしんちゃん』だ。

『クレヨンしんちゃん』と聞いて子供向けのアニメか、と思う人もいるかもしれないが、これが一概にそう断言できるものでもないのだ。

例えば、『クレヨンしんちゃん 嵐を呼ぶ アッパレ!戦国大合戦』は戦国時代を舞台にしたタイムスリップものの作品だが、劇中では合戦の前のを描写してみせたり、と日本映画の中でも屈指の戦描写の正確さで歴史家たちを唸らせた。

また、『クレヨンしんちゃん オラの引越し物語 サボテン大襲撃』は野原一家がひろしの会社の辞令にともないメキシコへ引っ越す話なのだが、そこで襲いかかるキラーサボテンという植物はという特徴を持ち、これは東日本大震災で問題となった放射能のメタファーではないかと言われている。

極めつけはに公開された『クレヨンしんちゃん 嵐を呼ぶ モーレツ!オトナ帝国の逆襲』だろう。日本のアニメ映画史に残る名作となった本作は.子供時代のノスタルジーに囚われた大人たちと、21世紀の未来へ前向きに進もうというしんのすけたちの対比を通して、人生の価値、明日を生きる勇気を与えた感動作だった。

だが、実際の21世紀はどうだったのか。

『超能力大決戦』では『オトナ帝国』が示した未来への希望が打ちのめされた現実を描いている。今回の敵役は、悪人ではない。むしろ格差社会の犠牲者とも言える。非理谷フリーターでバイトを転々としながら、好きなアイドルだけが生き甲斐という人物だ。

いかにもステレオタイプなオタク男性の人物像だが、実際にこういう人も少なくはないだろう。

そんな彼が宇宙から飛来してきた隕石の不思議な力を得て、それまでの人生の鬱憤を晴らすかのようにダークサイドへ墜ちていく。

そして最終的には野原一家と戦うことになり、そして予想通り非理谷は負ける。

ひろしは非理谷に「頑張れ!」と声を掛けるが、だが非理谷が貧しく、孤独な人生を歩むことになった原因は彼自身の努力不足だけなのだろうか?

もちろん非理谷は頑張らねばならない。だが、21世紀を幸せなものにしようと奮起したのは彼より上のひろしらの世代ではなかったか。果たしてそれは叶ったのか?そこへの言及なしに「頑張れ!」と「これから」の全責任を非理谷だけに負わせるのは違和感を感じる。

過去にとらわれずに新しい未来を生きようとすべての世代に呼びかけたのが『オトナ帝国』だとしたら、今作『しん次元! クレヨンしんちゃん THE MOVIE 超能力大決戦 〜とべとべ手巻き寿司〜』は歩き出した新時代がどうだったのかの答え合わせに当たるだろう。

この20年の歩みの検証は非理谷らの世代ではなく、当時の大人達にこそ課せられた課題なのだ。

評価・レビュー

67点

とは言え、ここまでメッセージ性を感じさせてくれる作品の深さが『クレヨンしんちゃん』の魅力のひとつでもある。

それは他の作品に比べてコンテンツとしての制約が比較的ゆるく、『クレヨンしんちゃん』という素材さえあれば様々な料理にアレンジすることの出来る柔軟性があるからだろう。

本作は3DCGに挑戦している。あまり『クレヨンしんちゃん』には馴染みそうにない表現手法だとは感じたものの、スピーディーな演出などに3DCGはよくマッチしていた。意外と『クレヨンしんちゃん』は絵柄的にはリアルからは程遠い絵柄だが、テンポの早い作品でもあるのでそうした面を見るとやはり3DCGは『クレヨンしんちゃん』の新しい魅力を開いたようにも思う。

作品情報・キャスト・スタッフ

2023年製作/94分/日本

監督
大根仁

脚本
大根仁

主演
小林由美子
ならはしみき
森川智之
こおろぎさとみ
松坂桃李
鬼頭明里
空気階段(鈴木もぐら・水川かたまり)

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CINEMA OVERDRIVE

ロックミュージックに欠かせないエフェクター、OVERDRIVE。
それはクリーンな音に歪みを与え、それまでの音楽に新しい可能性をもたらした。
CINEMA OVERDRIVEもまた「個人的な評価」という歪みによって、映画の捉え方・楽しみ方を広げていきたい。