概要
『クリード 炎の宿敵』は2019年のアメリカ映画。『クリード』シリーズとしては2作目の作品であり、『ロッキー』シリーズとしては7作目の作品に当たる。
あらすじ・ストーリー
コンランとの一戦から、破竹の勢いで勝利を重ねるアドニス・クリード。
世界王者に上り詰めた彼は、恋人であるビアンカとの結婚も果たし、幸せを謳歌していた。
そんな中、ロシアではイワン・ドラゴの息子ヴィクターがボクサーとして台頭していた。父のイワン・ドラゴは30年前、アドニスの父親であるアポロ・クリードを葬ったボクサーであったが、ロッキーとの試合に破れ、祖国では貧しい暮らしを余儀なくされていた。
ヴィクターは世界王者アドニスとの対決を希望する。
アドニスは父親の敵を討とうと応じる姿勢を見せるも、ロッキーはアドニスのなかに「戦う理由」が欠落しているとし、セコンドから降りてしまう。
感想・解説
『クリード 炎の宿敵』は前作以上にロッキーシリーズとの結び付きが強い作品だ。
『ロッキー4』でアドニス・クリードの父、アポロの死が描かれる。父を葬ったのはソ連のボクサー、イワン・ドラゴ。
しかし、ドラゴは『4』のクライマックスでロッキーに敗北し、その後はロシアで貧しい生活を送っていたことが今作で明かされる。
『ロッキー4』は東西の冷戦を背景に、その雪解けをテーマに織り込んだ作品だ。
「最初は観客の自分に対する敵意に戸惑い、自分も観客を憎んだ。しかし戦いの末に互いに気持ちが変わっていった。つまり俺たちは誰でも変われるはずなんだ」
というロッキーの台詞にそれは強く現れている。
と同時に『ロッキー4』は必ずしも評価の高い作品ではなかった。
『クリード 炎の宿敵』はそんな『ロッキー4』を今作へ至る必然の物語として見事に昇華してみせた。
実際に『ロッキー4』を観ていずとも充分に今作を楽しむことは出来るだろう。
しかし、やはり『ロッキー4』は観ておくべきだ。『クリード 炎の宿敵』はクリード親子以上にドラゴ親子の物語でもあるからだ。
『ロッキー4』のイワン・ドラゴはまるでフランケンシュタインの怪物を思わせる。勝利を目指すためには薬物による肉体改造も厭わず、感情すら持ち合わせていないその存在は人間でありながら非常に人工的にも見える。
『フランケンシュタイン』の中では怪物は誰にも愛されることはない。
94年の映画『フランケンシュタイン』について監督のケネス・プラナーは同作を「父親に愛されなかった息子の話だ」と述べている。
『クリード 炎の宿敵』ではそれは母親に愛されないヴィクターの姿に通じる。
彼も父と同じまた憎悪に駆られた存在であり、イワンにとってはヴィクターは再び親子が成功するための武器でもあった。
ヴィクターは父子を捨てた母親を憎む一方でその愛情にも飢えている。
その様は創造主のフランケンシュタイン博士に愛されない怪物そのものでもある。
余談ではあるが、『フランケンシュタイン』におけるフランケンシュタイン博士の名前も同じヴィクターだ。
『クリード 炎の宿敵』ではアドニス・クリードは家族のために戦い、ヴィクターに勝つ。主人公側にしてみればハッピーエンドなわけだが、ではヴィクターにとっては?
正直なところ、観れば観るほどこのフランケンシュタインの怪物であるヴィクターの悲哀に惹き付けられてしまうのだ。終盤、アドニスの猛攻にヴィクターは続けざまにダウンを喫する。その様子を見て、再び母親はヴィクターを見捨てる。
観客席に目をやると、さっきまで母親が座っていた席に誰もいない。このときのヴィクターの迷子になった子供のような目が印象的だ。
ヴィクターは母親を見返すための、そして母親に愛されるための武器はボクシングだった。しかし、もう母は自分を見ていない。
戦う理由を無くし、なす術なくアドニスに打たれ込まれるヴィクター。そんな彼にタオルが投げ込まれる。それは父のイワンからだった。
ここで初めてイワンは父親らしい愛情を見せる。
『フランケンシュタイン』では、怪物は一度も創造主であるフランケンシュタイン博士から愛情を受けることなく、北極へ姿を消す。
『クリード 炎の宿敵』はそうではない。ヴィクターは人間らしい愛情とやっと巡り会う。『ロッキー4』でロッキーはボクサーとしてのアポロを尊重しすぎたことで彼の死を許してしまう。
今作では同じ状況にイワンが置かれる。
それまで息子をボクサーとしてしか見ていなかったイワンはここでやっと父親らしい行動をとる。
ひとりの人間として息子を見るのだ。
「もういいんだ」
イワンのこの台詞は自分の復讐を息子にボクシングという形で負わせたことへの自省の言葉でもあるのだろう。
『クリード 炎の宿敵』においてこの二人の関係こそが最も哀しく、最も心を打つ。
評価・レビュー
81点
クリード自身の物語よりもどうしてもドラコ親子の物語に目がいってしまう。
前作の続編というよりも、『ロッキー4』の続編といった方がいいもしれない。
『ロッキー4』ではソビエトの大地で原始的なトレーニングを積むロッキーの姿が描かれたが、今作では灼熱の大地でやはり原始的なトレーニングに挑むクリードの姿が対照的に描かれている。
続編は失敗するとよく言われるが、これだけのクオリティを維持できるのであれば十分に合格点だろう。
願わくば次作で過去の『ロッキー』シリーズに縛られない『クリード』シリーズならではの新境地を観てみたいものだ。
追記:その後、続編となる『クリード 過去の逆襲』が公開された。こちらは知るヴェスター・スタローンが参加しない、ロッキーなき『クリード』シリーズであった。アメリカではシリーズ最高の興行収入を叩き出したのだが、日本では期待外れの結果に終わっている。
作品情報・キャスト・スタッフ
2018年製作/ 130分/アメリカ
監督
スティーヴン・ケイプル・Jr
脚本
ジュエル・テイラー
シルヴェスター・スタローン
主演
マイケル・B・ジョーダン
シルヴェスター・スタローン
テッサ・トンプソン