『クライ・マッチョ』イーストウッド監督作に見る、人生の晩年

概要

『クライマッチョ』は2021年に公開されたクリント・イーストウッド監督・主演のロードムービー。
元ロデオスターの老人が恩人の息子をメキシコからアメリカへ連れてくる仕事を請け負う。
クリント・イーストウッドの映画監督40周年作品として公開された。また、本作は『許されざる者』以来の西部劇でもある。

あらすじ・ストーリー

元ロデオスターのマイクは落馬事故をきっかけにロデオを引退。妻子にも先立たれ、孤独な生活を送る彼の元に元雇い主から「メキシコにいる別れた妻の元で暮らしている息子をアメリカに連れてきてほしい」と依頼を受ける。その息子、ラフォは妻から虐待も受けているという。
犯罪スレスレの依頼に戸惑うマイクだが、雇い主への恩義もあり依頼を承諾。

一人メキシコへ向かったマイクが出会ったのは子供に関心をもたず、男遊びに夢中の母親と、そんな母親から離れ、ストリートで闘鶏を糧に生きている少年、ラフォだった。
ストリートで生き、強い男に憧れるラフォはマイクに反抗するが、マイクがかつてカウボーイだったことやアメリカでの裕福な暮らしが待っていることを知ると次第にマイクに心を開いていく。

だが、二人の元には元妻からの刺客が迫ってきていた。

感想・解説

90歳を越えたクリント・イーストウッドはこのどういう世界を見ているのか。
90歳を超えても現役の映画人であり続けられた人はほんのわずかだ。
この映画には過去のクリント・イーストウッド監督作品を連想させるような場面がいくつもある。

犯罪スレスレのことをするためにメキシコへ向かうマイクだが、警察に追われる様は『運び屋』を思い出す。また、メキシコで出会ったレストランの店主とのダンスは『マディソン郡の橋』を。
もちろん、イーストウッドがブレイクを果たしたきっかけである西部劇のエッセンスもあることは言うまでもない。

だが、本作に一番近いのは2008年に公開された『グラン・トリノ』ではないか。今作『クライ・マッチョ』も『グラン・トリノ』も脚本を手掛けているのはニック・シェンクだが、この2作は設定が非常によく似ている。
昔は成功していたが、今は孤独な老人という主人公。その主人公がマイノリティの子供と出会い、心を通わせていくという流れ。ラスト自分の大切にしているものを相手にプレゼントするという流れも同じだ。

だが、流れは同じでもその内容は正反対というのが興味深い。『グラン・トリノ』のは家族はいるものの、折り合いが悪く孤独。しかし『クライ・マッチョ』では妻子とは死別している。
子供との出会いも同様だ。『グラン・トリノ』では相手が主人公の居住地へやって来るが、『クライ・マッチョ』は主人公が少年の元を訪れて親交が深まっていく。
極めつけはラストのプレゼントだ。ネタバレになってしまうが、『グラン・トリノ』では死亡した主人公の遺言に愛車のグラン・トリノは少年に譲ると記してあった。一方『クライマッチョ』では少年が主人公に宝物を贈る。マッチョと名付けられた闘鶏だ。

真の強さは男らしくあることではない。

真の強さに気づいた少年はマッチョをマイクに手渡す。まるでそれが勲章であるかのように。
この作品は賛否両論の評価がある。イーストウッドの演技は好意的に見られているが、脚本へは批判の声が相次ぐ。事件はあるものの、いずれもあっけなく解決し、平坦なロードムービーにも見えてしまうからだろうと思う。
だが、90歳を越えたイーストウッドが望む人生の終わりはヒロイズムに死すことでもなく、超人的に敵と戦い続けることでもないのだろう。

『クライ・マッチョ』はそんなイーストウッドの心境を映したような作品になっている。

評価・レビュー

60点

90歳を越えた監督が作った映画と言うだけでも見る価値はある。
起伏に乏しいのはレビューに書いた通りだが、強い感動やサスペンスを求める人には不向きだとも思う。
『グラン・トリノ』との比較になってしまったが、映画としての完成度は圧倒的に『グラン・トリノ』が勝っている。
『クライ・マッチョ』はイーストウッドのこれまでの監督作品のエッセンスが詰まったカーテンコールのような作品でもあるのだ。

作品情報・キャスト・スタッフ

2021年製作/104分/アメリカ

監督
クリント・イーストウッド

脚本
ニック・シェンク
N・リチャード・ナッシュ

主演
クリント・イーストウッド
エドゥアルド・ミネット

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CINEMA OVERDRIVE

ロックミュージックに欠かせないエフェクター、OVERDRIVE。
それはクリーンな音に歪みを与え、それまでの音楽に新しい可能性をもたらした。
CINEMA OVERDRIVEもまた「個人的な評価」という歪みによって、映画の捉え方・楽しみ方を広げていきたい。