『ゾンビ』ゾンビ映画というジャンルを確立させた原点にして至高

概要

『ゾンビ』は1978年に公開されたジョージ・A・ロメロ監督、デビッド・エンゲ主演のホラー映画。『ナイト・オブ・ザ・リビングデッド』の続編にはなるのだが、知名度としてはこちらのほうが有名だろう。今日においても数多く作られているゾンビ映画の源流となる重要な作品だ。

あらすじ・ストーリー

突如、世界中で死者が蘇り、ゾンビと化して次々と人間を襲い始める。ゾンビに襲われた人間もまたゾンビとなり、街にはゾンビがあふれるようになる。TV局スタッフのフランシーンとスティーヴン、SWAT隊員のロジャーとピーターは郊外のショッピングモールへと逃げ込む。

しばしの自由を楽しむ彼らだったが、モールの外にはゾンビの大群が押し寄せてきていた。そしてショッピングモールに略奪目的で暴走族の集団が乱入してきた時に、ゾンビの大群もまたショッピングモール内に侵入してしまう。

感想・解説

ゾンビとは元々ブードゥー教に登場する蘇った死者のことだ。彼らはただ愚鈍に動き回り、主人の言うことに従う奴隷のような存在だったが、そこに「ゾンビに噛まれると自らもゾンビになる」という設定を盛り込んだのがジョージ・A・ロメロだ(その設定はリチャード・マシスンの『アイ・アム・レジェンド』が元になってはいるが)。

こうして作られたゾンビ映画が『ナイト・オブ・ザ・リビングデッド』。今日のすべてのゾンビ映画はここから始まったと言っていいだろう。ちなみに『ナイト・オブ・ザ・リビングデッド』におけるゾンビのメイクは『恐怖の足跡』の亡霊たちのメイクが元になっている。

ジョージ・A・ロメロの素晴らしいところは作品が単なるホラー映画の枠に留まらないメッセージを持っている点だ。

『ナイト・オブ・ザ・リビングデッド』では当時としては珍しい黒人を主人公に配した作品で、人種差別を描いているとも言われる。

『ゾンビ』では、大量消費社会への批判が盛り込まれている。ゾンビが生きていた頃の習慣そのままにショッピングモールへ押し寄せる光景はそれを象徴している。

両者に共通するのは、本当に恐ろしいのはゾンビではなく、人間の方ではないかという問いだ。

『ゾンビ』ではショッピングモールに暴走族の集団がなだれ込む。彼らの襲撃によってゾンビもまたモール内に侵入してしまうわけだが、暴走族はゾンビたちをレジャーのように殺していく。

『ゾンビ』の世界観では世界中にゾンビが溢れている。生きるか死ぬかの非常に原始的な社会がそこにはあるのだが、その中で「人間らしさ」をどこまで保てるのだろうか。

ゾンビと人間の違いは、生きているのか死んでいるのかではなく、実はそこにあるような気がしてならない。

評価・レビュー

79点

今あるすべてのゾンビ映画は『ゾンビ』の影響下にあると言ってもいい。それほど今作は映画史にとってももちろんのこと、社会的にも重要な作品と言えるだろう。

感想の部分では言及していないが、今作はフェミニズムの面からも観ることができる。

『ナイト・オブ・ザ・リビングデッド』のバーバラはか弱い女性だったが、『ゾンビ』のは違う。

それは当時の時代を反映したものでもあるだろう。

そして、未来をこれほどまでに不明確に描いたラストシーンもないだろう。

しかし、その事自体が現代社会への風刺であり、強烈なメッセージだと思う。

ホラー映画として観た場合は今の基準では決して怖いとも、またグロテスクとも言えないので、この点数とした。

その分ホラーが苦手な人にはとっつきやすいホラー映画だと思う。

作品情報・キャスト・スタッフ

1953年製作/ 115分/アメリカ・イタリア

監督
ジョージ・A・ロメロ

脚本
ジョージ・A・ロメロ

主演
デビッド・エンゲ
ケン・フォリー
スコット・H・ライニガー
ゲイラン・ロス

>CINEMA OVERDRIVE

CINEMA OVERDRIVE

ロックミュージックに欠かせないエフェクター、OVERDRIVE。
それはクリーンな音に歪みを与え、それまでの音楽に新しい可能性をもたらした。
CINEMA OVERDRIVEもまた「個人的な評価」という歪みによって、映画の捉え方・楽しみ方を広げていきたい。