『フォレスト・ガンプ/一期一会』

概要

『フォレスト・ガンプ』は1995年に公開されたロバート・ゼメキス監督、トム・ハンクス主演のドラマ映画。原作はウィンストン・グルームによる同名小説だが、映画版では原作のコミカルな部分は抑えられ、感動的な要素が強調されている。

あらすじ・ストーリー

知能指数は低いが心優しい少年フォレスト・ガンプ。彼は小学生の時にクラスメイトからいじめられていたが、ジェニーだけは彼に優しく接するのだった。高校生になっても相変わらずいじめられていたフォレストだが、ある時いじめっ子から逃れるために走っていたところ、大学のアメフトの試合に乱入してしまった。彼の足の速さを見込んだ監督は、彼をスポーツ選手として大学に進学させた。

その後もフォレストは軍隊に入りベトナム戦争に従軍したり、卓球選手として中国に渡るなど、アメリカの戦後の激動の時代を歩いていく。

しかし、フォレストの心にはいつもジェニーの姿があった。

感想・解説

『フォレスト・ガンプ/一期一会』を初めて観たのは小学生の頃だっただろうか。

なんて良い映画なんだろうと感動したことを今も鮮明に覚えている。

ジョン・レノンやリチャード・ニクソン、毛沢東などの歴史上の故人との当時の最新テクノロジーによる「共演」もエモーショナルだった。

『フォレスト・ガンプ』の原作はもっとハチャメチャでコミカルなガンプの冒険エピソードが描かれている(たしか宇宙飛行士になってチンパンジーと共に宇宙へ行くエピソードもあったような気がする)。

しかし、冒頭でも述べたように、映画版はヒューマン・ドラマとも言うべき感動作に仕上がっている。

映画評論家の町山智浩氏は著書『本当に危険なアメリカ映画』の中で『フォレスト・ガンプ』はカウンターカルチャーの敗北を描いた保守的な作品だと批判的な目線を述べている(あくまでそういう見方もできる、という意味合いだろうが)。

黒人の権利の向上を訴えたブラックパンサー党は男尊女卑でドラッグまみれの組織のごとく描かれているし、全米で最も人種差別が激しいと言われたアラバマ州を舞台にしている割には人種差別はほとんど描かれることはない。

また、フォレストのソウルメイトとも言うべきジェニーは、作品の中ではカウンターカルチャーのムーブメントを代表するような人生を送るが、彼女の人生はことごとく挫折してゆく。

そういった意味では確かに保守的な映画と言われればそうかもしれない。

ここでもう一つの視点を提案してみよう。それはフォレストのような決して賢いとは言えない人間が人生において成功を勝ち取っていくサクセスストーリーとしての魅力だ。

アメリカの産業の中心は1980年代にブルーカラーからホワイトカラーへ移行し、金融業やITがその中心となっていった。

それは一攫千金という夢をもたらしたが、一方でそれまでの労働者は顧みられることも少なかったのではないか。

オリバー・ストーンは『ウォール街』でそんな1980年代のアメリカの姿を描いてみせたが、『フォレスト・ガンプ』が描いた夢は、昔ながらの真面目にやっていれば、例え賢くなくても成功することができるというアメリカン・ドリームの姿ではなかったか。それはクリント・イーストウッド監督の『グラン・トリノ』で主人公のコワロフスキー老人が経験してきたことでもある。

ちなみに個人的にはゼメキスがそう保守的な人物だとも思えないのだ。

ロバート・ゼメキス監督の長編デビュー作はビートルズの追っかけである4人のファンを描いた『抱きしめたい!』だが、ゼメキスはロックンロールには優しいまなざしを向けている。

エルヴィスが大人たちから怪訝な顔で見られた腰をふる独特の動きもフォレストからヒントを得たことになっているし、ジョン・レノンが名曲『イマジン』をひらめいたのもフォレストのインタビューの様子を聞いたからだった。

確かに『フォレスト・ガンプ』には政治的なバイアスがあるかもしれない。それでも名作であることに変わりない。

その中心にあるのは一人の女性への愛情だからだ。

ビートルズの楽曲に『All need is love』があるが、どんな人にとっても愛情は普遍的なものだろう。だからこそ、今作はヒットしたのではないか?

評価・レビュー

95

『フォレスト・ガンプ』は名作には違いないが、戦後史として今作を観る場合には確かに政治的なバイアスへの配慮が必要だ。黒人にとっての戦後史も補完したいのであれば、リー・ダニエルズ監督の『大統領の執事の涙』も合わせて鑑賞することを強く勧めたい。

作品情報・キャスト・スタッフ

1994年製作/142分/アメリカ

監督
ロバート・ゼメキス

脚本
エリック・ロス

主演
トム・ハンクス
サリー・フィールド
ロビン・ライト
ゲイリー・シニーズ
ミケルティ・ウィリアムソン

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ロックミュージックに欠かせないエフェクター、OVERDRIVE。
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