『或る夜の出来事』史上初アカデミー賞主要5部門完全制覇した名作

概要

『或る夜の出来事』は1934年のアメリカ映画。スクリューボール・コメディと呼ばれるジャンルの作品。
監督はフランク・キャプラ。アカデミー賞では主要5部門を初めて制覇した史上初の作品でもある。

あらすじ・ストーリー

大富豪の令嬢であるエリーはパイロットのウェストリーとの結婚を父に反対され、一人マイアミからニューヨークに向かう夜行バスに乗り込む。

そのころ、新聞社を首になったピーターもまた夜行バスに乗ってニューヨークに向かうことに。

エリーの座っている座席がピーターのものであったことから二人の初対面は最悪なものになるが、二人は旅の中で互いに惹かれていく。

感想・解説

フランク・キャプラが最も勢いのある時に製作されたスクリューボールコメディの名作だ。今作を観るとあの名作『ローマの休日』でさえ、今作に影響を受けていることがわかる。
そういった意味ではラブコメの始まりの作品だと言ってもいい。
庶民の日常に足を踏み入れた上流階級のお嬢様に近づいて、彼女との話でスクープを狙う新聞記者というプロットは『ローマの休日』とも共通している。

もともと『ローマの休日』の監督候補として打診があったのは今作のフランク・キャプラであり、『ローマの休日』の元となる脚本も、キャプラがダルトン・トランボに書かせたものだ。

今作の製作と同時期にハリウッドではヘイズ・コードと呼ばれる自主規制が敷かれることとなった。
だが、キャプラはその制約を逆手にとり、いくつもの素晴らしい演出を生み出している。ラストシーンであるジェリコの壁が落とされるシーンや、脚を見せて車を止めようとするシーン。
ヘイズコードによって、キスシーンすらない映画だが、これらの演出で作品の高い格調が実現している。

もともとフランク・キャプラはキャプラスクとも称される、ハッピーでヒューマニズムに溢れた作風が持ち味だが、『或る夜の出来事』でもそれが遺憾なく発揮されている。

だが、アメリカはこの後に戦争へと向かっていく。元は移民であり、祖国では掴めなかった成功をアメリカで掴んだキャプラは『群衆』などの社会派の作品を製作し、戦中は軍部に協力し、国威発揚のための映画作りに勤しんだ。そして戦後すぐに自身の集大成として製作した『素晴らしき哉、人生!』は批評的に振るわず、キャプラのキャリアは観る影もなくなっていく。

そう考えると、『或る夜の出来事』のヒットとキャプラの評価はは、アメリカの幸福な時代に支えられていたと言えるのかもしれない。

評価・レビュー

81点

戦前の名作である。大概どんな名作でも時間が経てばその作品のテンポや演出は時代に追い付けなくなる。
今作は80年以上の映画ではあるが、それでも今見ても十分楽しむことができる。
まさにアカデミー賞主要五部門を獲得しただけはある。是非観てほしい、映画史に残る名作映画だ。

作品情報・キャスト・スタッフ

1934年製作/ 105分/アメリカ

監督
フランク・キャプラ

脚本
ロバート・リスキン

主演
クラーク・ゲーブル
クローデット・コルベール

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CINEMA OVERDRIVE

ロックミュージックに欠かせないエフェクター、OVERDRIVE。
それはクリーンな音に歪みを与え、それまでの音楽に新しい可能性をもたらした。
CINEMA OVERDRIVEもまた「個人的な評価」という歪みによって、映画の捉え方・楽しみ方を広げていきたい。