『ジュラシック・パーク』CGよりも古びない、生命倫理と科学技術への警鐘

概要

『ジュラシック・パーク』は1993年に公開された スティーヴン・スピルバーグ監督、サム・ニール主演のSF映画。

当時の歴代映画興行収入を更新し、歴代一位となるほどヒットした、スピルバーグの代表作のひとつ。監督は異なるものの、『ジュラシック・ワールド 新たなる支配者』まで6作のフランチャイズ、多くのメディアミックスもなされている。

また、本作は映画におけるCG技術とその可能性を幅広く示した。恐竜の描き方とともにすべての映画を『ジュラシック・パーク』以前/以降と分けてもいい。それほど重要な作品でもある。

あらすじ・ストーリー

あるパークのオープン準備中に死亡事故が起きる。

経営者のジョン・ハモンドはオープン前のパークに専門家たちを招いて、パークの評価と安全性を保証してもらおうとする。そのメンバーの一人として、考古学者のアラン・グラントと恋人で同じく考古学者のエリー・サトラーを数年間分の発掘資金を条件にパークへ連れて来る。

パークに着いたアランとサリーは数学者のイアン・マルコムや弁護士の合流する。

そんな彼らの前に姿を見せたのはなんと生きている恐竜だった。

それからハモンドの孫たちのアレックスやティムと実際に恐竜見学ツアーに出かける一行だったが、その裏ではセキュリティ担当のエンジニアであるネドリーが裏取引のために一時的にシステムをシャットダウンしていた。

柵に流れる高圧電流がなくなった恐竜たちは柵から出て人間たちを襲い始めるのだった。

感想・解説

ヒットメイカーという言葉があるが、スティーヴン・スピルバーグほどその言葉にふさわしい人物はいないだろう。

今作『ジュラシック・パーク』は当時の世界興行収入記録を塗り替える作品となった。

原作者のマイケル・クライトンは子供の頃から『ロスト・ワールド』に夢中だったという。『ロスト・ワールド』はコナン・ドイルが発表したSF小説で恐竜が生き残っている世界へ人間が足を踏み入れる物語だ。1925年には実写映画も公開されている。今の基準で観るといかにものストップモーションでとてもリアルには思えないものだが、当時は多くの人に衝撃を与え、恐竜の実在を信じた人も少なくなかったという(もっとも作者のコナン・ドイルが恐竜の実在を否定しなかったことも大きいと思うが)。

『ジュラシック・パーク』はそんな人間と恐竜たちが同じ世界にいたらどうなるかを描いた作品だ。クライトンなりの『ロスト・ワールド』と言ってもいいだろう(『ロスト・ワールド』というタイトルは続編の『ロスト・ワールド』に引き継がれている)。

だが、それだけでは終わらない。クライトンは小説にクローン技術と生命倫理という深いメッセージを刻み込んだ。

『ジュラシック・パーク』の原作が書かれたのは1990年で、ちょうどクローン技術が注目を集めていた頃だ。

『ジュラシック・パーク』では、琥珀の化石の中に閉じ込められた蚊の体内から恐竜の血液を採取し、そのDNAから恐竜を復元するという設定が採られている。

そこにあるのは人間が命を作り出し、また支配しようとする考えだが、クライトンはそのような科学の発展と人間の驕りを強く批判した。

イアン・マルコムはそんなクライトンの代弁者とも言えるキャラクターだ。

「生命は道を見つける」

劇中でマルコムの言葉は何度も繰り返され、恐竜たちは人間の支配か逃れ、自らだけで繁殖できるようになっていた。

エンターテインメントとしても今なお古びない作品だが、そのメッセージ性もまた普遍的な価値を保ち続ける名作だ。

もちろん、『ジュラシック・パーク』の生命倫理のメッセージ性も素晴らしいが、映像技術を無視するわけにはいかない。

『ジュラシック・パーク』前後で映画は変わってしまったと言っていい。幼い頃のスティーヴン・スピルバーグは『ゴジラ』を観て「どうやってあんなに滑らかに怪獣を動かしているのかわからない」と衝撃を受けたそうだが、『ジュラシック・パーク』でまたその表現は完全に上書きされてしまった。

もともと『ジュラシック・パーク』の恐竜たちはストップモーションで描かれる予定だったという。

CG全盛の今、ストップモーションの説明が難しいが、簡単に言うとパラパラ漫画のようなものだ。

映画でいうと『ターミネーター』のクライマックス、エンドスケルトン状態で動くT‐800はストップモーションだし、『ロボコップ』に登場するヘッポコマシンのED‐209の動きもストップモーションだ。

ただ、これらの映画を観るとわかるように、ストップモーションには特有のカクカクした動きがどうしても拭えない。

それを解決したのがCGだった。その滑らかな動きに感動したスピルバーグはストップモーションの予算を削ってCGを増やすように舵を切った。

『ジュラシック・パーク』で使われているCGの総時間は7分程度だが、そこには世界初とも言えるCGのスタントマンなど、のちの映画を変える要素に満ちている。

評価・レビュー

95点

物心ついた頃から、もう何度観たかわからないほど今作を観ている。

SF映画ではあるものの、ホラー映画的な側面も強く、それが今作が古びない理由の一つでもあると思う。

感想では本作に込められたメッセージを中心に語ってしまったものの、今作は演出の面でも実に工夫を凝らした作品なのだ。

感想の部分でも述べたが、本作以前と以後で恐竜の描かれ方はもちろん、怪獣映画すら大きく変わってしまった。それほどまでに強い影響力をもった重要作だ。

作品情報・キャスト・スタッフ

1993年製作/127分/アメリカ

監督
スティーヴン・スピルバーグ

脚本
マイケル・クライトン
デヴィッド・コープ

主演
サム・ニール
ローラ・ダーン
ジェフ・ゴールドブラム
リチャード・アッテンボロー
アリアナ・リチャーズ
ジョゼフ・マゼロ
ボブ・ペック
マーティン・フェレロ
ウェイン・ナイト
サミュエル・L・ジャクソン
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