『ダイ・ハード4.0』シリーズのファンが愛情を持って続編を作ったらどうなるのか?

概要

『ダイ・ハード4.0』は2007年に公開されたレン・ワイズマン監督、ブルース・ウィリスのアクション映画。前作『ダイ・ハード3』から12年ぶりの新作となった。

あらすじ・ストーリー

ニューヨーク市警として働く「世界一ついていない男」ジョン・マクレーン。

妻のホリーとは離婚し、娘から煙たがられていた。

そんな中、全米のインフラがハッキングされる事件が発生。犯人の特定のために全米中のハッカーを保護することになり、マクレーンはマシューというハッカーの家へ向かう。

その時、マクレーンとマシューは何者かからの襲撃を受ける。

マシューを保護し警察署へ向かったマクレーンは7人のハッカーが24時間以内に殺されていることを知る。

今回の犯人は元国防総省のチーフプログラマーであるトーマス・ガブリエル。

アナログ人間のマクレーンはマシューの助けも借りながらサイバーテロ組織に立ち向かっていく。

感想・解説

今作を観ると、映画製作者がその作品にどれだけ愛情を持っているかで作品の出来が大きく左右されるのがよく分かる。

GODZILLA』はゴジラ映画のファンや批評家から厳しい意見が相次いだが、後に監督のローランド・エメリッヒはゴジラの映画を撮ることにそもそもあまり乗り気ではなく、あえて断られるようなアイデアを出したところ、意外にも東宝側からOKが出て製作せざるを得なくなったと告白している。

ファンからの悪名高い作品としては2009年に公開された『ドラゴンボール・エボリューション』がその筆頭だと思うが、こちらも後に脚本家のベン・ラムゼイが「私は「ドラゴンボール」のファンとしてではなく、ビジネスマンが業務を請け負うかのように、この仕事で大金が支払われることに目がくらんでしまったのです。私はこのことから、創造的な仕事に情熱なく取り組んだ場合には、最低の結果が伴うこと、そして時として作品を薄っぺらいゴミにしてしまう副作用もあることを学びました。
(中略)
世界にいる「ドラゴンボール」ファンの皆さんへ、心からお詫びします。」と『ドラゴンボール』のファンに謝罪の言葉を述べている(ちなみに原作者である鳥山明の逝去に際して、本作の主演俳優だったも哀悼の意と謝罪のコメントを出している)。

まぁもちろん作品に愛情を持っていても、だからといって決してそれが成功するわけでもないのだが。

さて、『ダイ・ハード4.0』の監督のレン・ワイズマンは熱烈な『ダイ・ハード』シリーズのファンでもあるという。なんでもシリーズのジョン・マクレーンのセリフはすべて覚えているほどだという。

個人的に本当か?という疑問はあるものの、本作を観るとレン・ワイズマンが『ダイ・ハード』シリーズの魅力を完璧に理解しているのがよく分かる。

ジョン・マクレーンが時代遅れのアナログで不器用な頑固親父である所も、それゆえに家族ともうまく行っていないことも、これまでの作品でジョン・マクレーンというキャラクターをみていたら、そりゃそうだよなと思えるところばかりなのだ。

ジョン・マクレーンは、一般の人がイメージするランボーのようなスーパーマンではない(ランボーも決して好戦的な人物ではないのですが、ここでは便宜上)。

1980年代のアクション俳優としてイメージされるアーノルド・シュワルツェネッガーやシルヴェスター・スタローンのような筋骨隆々としていて、超人的な力を発揮する役柄と、ブルース・ウィリス演じるジョン・マクレーンは対称的だった。

どちらかと言えばマクレーンは弱いヒーローだ。『ダイ・ハード』でも傷だらけになりながら戦い、との格闘においては明らかに力負けしている。本当は事件に関わりたくはないのだが、たまたま事件に巻き込まれていく。

『ダイ・ハード4.0』でもマットの「」という言葉に対して「他にやる人がいないからだ。喜んでを渡す」と述べている。

また今作では『ダイ・ハード』シリーズで「家族を守るために戦う」というマクレーンの動機が復活している。『ダイ・ハード』、『ダイ・ハード2』では妻のホリーを守るというのがマクレーンの戦う大きな理由になっていた。『ダイ・ハード3』は家族が理由にはなっていなかったが、『ダイ・ハード4.0』は娘のルーシーのためにサイバーテロ組織に立ち向かう。

昨今のスーパーヒーロー映画のように「世界を滅ぼす悪と戦う」主人公よりも、家族を守る男の方に心情としては共感しやすいはずだ。その意味ではスーパーヒーロー疲れも当然だと思う。

『ダイ・ハード3』から12年ぶりとなった今作はアクションも大幅にスケールアップしており、それもまた大きな魅力ではあるのだが、根本にあるのは『ダイ・ハード』ならではの不器用な男の実直さと愛情なのだ。『ダイ・ハード4.0』はそれを正しく回復させた作品なのだと思う。

評価・レビュー

92点

エンターテインメントのお手本のような作品。程よいテンポと飽きさせないアクションの連続でシリーズ未見の人でも問題なく楽しめるだろう。

本作はまた9.11後のアメリカからの脱却を示した作品でもある。

本作ではアラブ系の俳優であるクリフ・カーティスを味方側のCIAに配役するなど、9.11前後の映画でありがちだったアラブ系=敵のテロリストという構図から脱却しようとする意図を感じることができる。そういった意味でも当時の時代を反映した作品だと言えそうだ。

作品情報・キャスト・スタッフ

2007年製作/129分/アメリカ

監督
レン・ワイズマン

脚本
マーク・ボンバック

主演
ブルース・ウィリス
ジャスティン・ロング
ティモシー・オリファント
メアリー・エリザベス・ウィンステッド
マギー・Q
シリル・ラファエリ
クリフ・カーティス
ケヴィン・スミス

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ロックミュージックに欠かせないエフェクター、OVERDRIVE。
それはクリーンな音に歪みを与え、それまでの音楽に新しい可能性をもたらした。
CINEMA OVERDRIVEもまた「個人的な評価」という歪みによって、映画の捉え方・楽しみ方を広げていきたい。