概要
『踊る大捜査線 THE MOVIE3 ヤツらを解放せよ』は2010年に公開された本広克行監督、織田裕二主演の刑事ドラマ作品。
『踊る大捜査線』シリーズとしては7年ぶりの作品となる。
あらすじ・ストーリー
湾岸署が新しく建て替えされることとなり、係長となった青島は引っ越しチームの本部長として、引っ越し作業に勤しんでいた。
そんななか、署から拳銃が盗まれる事件が発生する。
署内が騒然とする中、盗んだ拳銃で1人が射殺される事件が起きる。
犯人の要求は青島によって逮捕された受刑者9名の釈放。
青島は本庁の調整役である鳥飼とコンビを組み、捜査にあたっていくが、体に異変を感じるようになっていた。
感想・解説
ネット上では今作に対して「踊る大捜査線3 ひどい」だとか、「踊る大捜査線3 つらまない」なとの言葉が並ぶ。
確かに本作は過去作と比べるまでもなくひどい作りのドラマではある。
個人的にそのいくつかを並べてみよう。
まずはキャラクターだ。本作では伊藤淳史演じる和久さんの甥というキャラクターが登場するが、このキャラクターが酷い。
和久ノートという和久さん自身が今までの言葉をメモしてした遺品を持ち歩き、要所要所でその中の言葉を大声で唱えるのだが、いくらなんでもウザすぎるし、まるで空気を読めていない。
新人らしいフレッシュさ、エネルギッシュな感じを表現したかったとしても、表現方法が古すぎる。
特に、署内に仕掛けられた毒ガスの起動装置の配線を切る場面で、まさかの違う方の配線を切るなどは、「毒ガスがフェイクだった」からたまたま結果オーライなだけで、行動そのものは懲戒レベルのものではないのか?
ちなみに『室井慎次 敗れざる者』の秋田県警の方が数倍ひどいキャラではあったので、公開当時と比べるとこのキャラクターへの印象は多少改善している。
新人キャラだけではない、レギュラーの登場人物の描き方も雑になっている。
例えば、犯人が受刑者の釈放を要求する場面で、他の上層部のメンバーが新たな殺人事件の発生を鑑みて、超法規的措置として釈放を認めようとするのに対し、室井管理官だけが日本は法治国家であるとしてそれに断固反対する。
この対立の中で「調整役」の鳥飼が「一旦釈放するが、その後犯人たちを射殺する」というトンデモ案を提案する。
すると、室井はその案を認めてしまうのだ。
えっ、それこそ法手続もなにもない、ただの私刑国家ではないか。法の逸脱という点で、手続きを踏まない釈放と射殺にどんな違いがあるというのか。
また本作では中盤まで青島が重病ではないかという設定でストーリーが進んでいくのだが、それ以降は観客には、実は健康診断の結果は誤診で青島は健康ということは明かされている。
にも関わらず、終盤ですみれが署員に青島が重病であることを明かす。その上で「青島くんの意志を継ぎなさい」と皆を奮起させるのだが、そうであればこの段階まで観客にも青島の誤診は伏せておくべきだろう。『踊る大捜査線』では本当に青島は死んだかもと観る人をドキッとさせるような演出だった。だからこそその時の室井やすみれの慟哭は心を打ったのだ。
せっかくのいいシーンであるのに、そこに至る組み立てを間違えているので、どうもしっくり心にハマらないのだ。
客はバカではない。いくら『踊る大捜査線』が超人気コンテンツだからといって、その看板があれば何でもいいわけではない。
評価・レビュー
25点
実際にはキャラクターの描き方については『踊る大捜査線 THE MOVIE 2 レインボーブリッジを封鎖せよ!』からすでにその雑さは見受けられた。沖田管理官がその典型であり、捜査に行き詰まると途端にパニックになりヒステリックになるその描き方は女性への偏見とも受け取られかねないものであった(少なくとも私にはそう感じられた)。
しかし、『踊る大捜査線 THE MOVIE』『踊る大捜査線 THE MOVIE 2 レインボーブリッジを封鎖せよ!』ではスタッフがストーリーを通してどのような『踊る大捜査線』らしさを紡いでいくのか、その部分を大事に作られているという印象は受ける。
だが、『踊る大捜査線 THE MOVIE3 ヤツらを解放せよ!』に関しては(7年ぶりの復活というのもあって)過度にファンサービスをしすぎている印象だ。TVシリーズが主の懐かしい犯人たちの釈放、『踊る大捜査線 THE MOVIE』の犯人である日向真奈美の再登場など、「どうやったらこの同窓会を自然に実現できるか」が優先にストーリーも作られているようにしか思えない。
もちろんそこには『踊る大捜査線 THE MOVIE 2 レインボーブリッジを封鎖せよ!』が170億超えというとんでもない記録を打ち出したプレッシャーもあっただろう。
しかし、だからこそ「本当の『踊る大捜査線』とは、何か」を見失わずにいて欲しかったと思う。
ドラマシリーズから一貫した監督と脚本家であれば、それはできたはずだと思うのだが。
作品情報・キャスト・スタッフ
2010年製作/141分/日本
監督
本広克行
脚本
君塚良一
出演者
織田裕二
深津絵里
ユースケ・サンタマリア
内田有紀
伊藤淳史
甲本雅裕
遠山俊也
佐戸井けん太
小林すすむ
北村総一朗
斉藤暁
小野武彦
寺島進
高杉亘
松重豊
ムロツヨシ
伊集院光
稲垣吾郎
岡村隆史
森廉
小泉孝太郎
小木茂光
小栗旬
小泉今日子
柳葉敏郎