概要
『シェイプ・オブ・ウォーター』は2017年に公開されたギレルモ・デル・トロ監督、サリー・ホーキンス主演のファンタジー映画。
あらすじ・ストーリー
1960年代のアメリカ。
感想・解説
2017年のアカデミー賞作品賞はなんと モンスター・ムービーが受賞した。『シェイプ・オブ・ウォーター』は声の出せない中年女と半魚人の恋を描いた作品だ。
監督のギレルモ・デル・トロは幼い頃から特撮の怪獣たちに夢中だった。いじめられっ子だったデル・トロは特撮映画のヒーローよりも、むしろヒーローに倒されてしまう怪獣の方に共感を覚えた。
『シェイプ・オブ・ウォーター』の物語のきっかけは『大アマゾンの半魚人』という映画だ。『大アマゾンの半魚人』ではアマゾンの奥地で半魚人が見つかる。半魚人は人間の女性に恋をするが、撃ち殺されてしまう。デル・トロはそんなバッド・エンドではなく、半魚人が女性と幸せに暮らすハッピーエンドの絵を描いた。これが『シェイプ・オブ・ウォーター』として結実することになる。
『シェイプ・オブ・ウォーター』の舞台は60年代。まだ人種差別は根強く残り、LGBTもその例外ではなかった。
イライザは声帯に負った傷が原因でしゃべれないという設定だが、それは「声を上げることのできないマイノリティ」の象徴でもあるという。イライザの友人は黒人の同僚であったり、ダイナーのコックに恋するゲイの男性だったり、60年代には明らかにマイノリティで差別を受ける側の人間たちだ。半魚人と親密になっていくイライザだが、半魚人は生体解剖されようとしていた。その事を知ったイライザは仲間と協力して、なんとか半魚人を海に返そうとする。
かくして「声なき人々」は立ち上がる。
『シェイプ・オブ・ウォーター』の前年のアカデミー賞作品賞は『ムーンライト』が受賞している。ゲイの黒人少年の成長を描いた作品だ。ゴールデン・グローブ賞やアカデミー賞において受賞者が白人ばかりだったことへの批判の回答としてアカデミー賞は多様性を選考の基準に加えると発表した。
ギレルモ・デル・トロは『美女と野獣』が好きではないという。
「僕は『美女と野獣』が好きじゃない。『人は外見ではない』というテーマなのに、なぜヒロインは美しい処女で、野獣はハンサムな王子になるんだ? だから僕は半魚人を野獣のままにした。モンスターだからいいんだよ」
だからこそ半魚人とエライザはそのままで暮らす。
ありのままを最大限に肯定してみせたこの作品は2017年の映画で最も高い評価を得た作品のひとつになった。ギレルモ・デル・トロはアカデミー賞のスピーチでこう述べている。
「多くのみなさんのように私は移民です。過去25年間自分の国に住んでいました。自分の一部はここにある、一部はヨーロッパにある、一部は他の国にあります。この業界は、そのような国境を越えて仕事をするべきだと思うんです」
さらにこうも述べている。
「これ(『シェイプ・オブ・ウォーター』)を捧げたいのは若い人達です。今の様々な状況を変えようとしているのは若い人達です。私が子供だった頃メキシコで過ごしていて、こういったことが起こるとは想像もしていませんでした。しかし、それが実現しました。夢を見ている人達、ファンタジーを使って現実について語りたいと思っている人達に伝えたいです。夢は実現するんです。切り開いて中に入ってきてください」
『シェイプ・オブ・ウォーター』を大人のおとぎ話だとギレルモは形容する。国境も人種も超えた愛。それは水のように形を持たずに全てを包み込む。
評価・レビュー
92点
「おとなのおとぎ話」とギレルモ・デル・トロが語った通りの出来栄え。
ラブストーリーであり、SF映画でもあり、モンスター映画でもある。
決してアカデミー賞向きの作品ではないが、だが本質的にはマイノリティの革命を描いた作品なのだ。
作品情報・キャスト・スタッフ
2017年製作/123分/アメリカ
監督
ギレルモ・デル・トロ
脚本
ギレルモ・デル・トロ
ヴァネッサ・テイラー
主演
サリー・ホーキンス
マイケル・シャノン
リチャード・ジェンキンス
ダグ・ジョーンズ
マイケル・スタールバーグ
オクタヴィア・スペンサー