『ザ・フライ』ホラー映画の枠を超えた泣ける名作

概要

『ザ・フライ』は1986年に公開されたデヴィッド・クローネンバーグ監督、ジェフ・ゴールドブラム主演のSFホラー映画。1958年に公開された『ハエ男の恐怖』のリメイク作である。

あらすじ・ストーリー

天才科学者のセスは物体のテレポーテーションを研究していた。転送実験は無機物なら成功するのだが、生きている生物で成功したことはなかった。

そんな時、知り合ったジャーナリストのベロニカからヒントを得たセスはついに生物での転送実験に成功する。ベロニカとも仲を深めていくセス。

しかし、ベロニカと彼女の以前の恋人が未だに親密にいることに嫉妬したセスはやけになり酔った勢いで自らの体で転送実験を行ってしまう。

転送後は精力がみなぎり、身体能力も以前とは比べ物にならないくらい飛躍的に向上したセスだが、異常に甘いものを欲したり、髪や歯が抜け出す。

そして背中からは固い体毛が生えてきていた。ベロニカがそれを分析したところ、それは昆虫のものだと判明する。

セスが転送実験の履歴を確認すると、セスの転送時に転送装置のポッドの中に一匹のハエが混入していたことが明らかになる。

ハエと融合してしまったセスの体は日に日にハエに近くなり、それとともにセスの理性も失われていく。

感想・解説

小学生から中学生の頃は木曜から日曜まで毎週必ず映画を観ていた。

木曜洋画劇場、金曜ロードショー、ゴールデン洋画劇場、日曜洋画劇場

週の半分以上のゴールデンタイムに映画が放送されるとは、サブスクリプション全盛の今ではとても考えられないことだ。

当時から映画が大好きだったので、様々な作品を観た。『フォレスト・ガンプ』、『ザ・ロック』、『バッド・ボーイズ』、『スピーシーズ』、『羊達の沈黙』、『トゥルーライズ』などはそうした映画のテレビ放送で出会った作品たちだ。

もちろん、このサイトで紹介したような作品も多々ある。やはりそれらは未だに忘れることのできない強烈なインパクトがあった。

そして、もう一つ外すことのできない作品がある。それが『ザ・フライ』だ。

主人公のセスを演じたのは『ジュラシック・パーク』シリーズのイアン・マルコム博士役で有名なジェフ・ゴールドブラム。ハンサムな彼の顔が徐々にハエへ変貌していく様子はあまりにショッキングだ。

本作はまだCGもそこまで発達していない時代の作品のために、特殊メイクなどやストップモーションでセスの容貌の変化を描いているが、かえってそれが得も言われぬ生々しさを演出しており、今作の強烈なグロテスクさに貢献しているように思う。

だが、そんなグロテスクな描写と反比例するように、物語自体がとても美しい。

もともとのオリジナル版である『ハエ男の恐怖』ではその結末はシニカルなものだったが、この点『ザ・フライ』ではなんとも言えない切なさを残す。

なんというか、ホラー映画なのだが、その中心にあるのはグロテスクさや残酷描写ではなく、愛情だと思うのだ。

姿形が変わっても、それでも最後までベロニカの中に愛は残っていた。

そして、セスの中にも一片の人間性が残っていた。

だからこそ、この結末はいつまでも心に残るのだ。

評価・レビュー

91

『ザ・フライ』についてはHIVのメタファーとも言われているが、監督のクローネンバーグははっきりとそれを否定している。クローネンバーグによると、徐々に体がハエになっていくのは「老化」のメタファーだという。それでもセスが理性をなくし、ベロニカを自身の再人間化の道具にしようとしたのは「オス」ゆえの生存本能からであり、HIVのメタファーと言われるのも理解は出来る。

感想でも書いたように、単なるSFホラーの枠を超えた作品だ。

特撮描写も、さすが完全なハエになってからはストップモーションで表現されており、よく見るとカクカクした動きになっている。

だが、それが気にならなくなるほどエモーショナルな作品でもある。

クローネンバーグ監督史上一番のヒットになった本作だが、観ればきっとその理由がわかるだろう。

作品情報・キャスト・スタッフ

1986年製作/95分/アメリカ

監督
デヴィッド・クローネンバーグ

脚本
チャールズ・エドワード・ポーグ
デヴィッド・クローネンバーグ

主演
ジェフ・ゴールドブラム
ジーナ・デイヴィス
ジョン・ゲッツ
ジョイ・ブーシェル
ジョージ・チュバロ
レスリー・カールソン
デヴィッド・クローネンバーグ

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CINEMA OVERDRIVE

ロックミュージックに欠かせないエフェクター、OVERDRIVE。
それはクリーンな音に歪みを与え、それまでの音楽に新しい可能性をもたらした。
CINEMA OVERDRIVEもまた「個人的な評価」という歪みによって、映画の捉え方・楽しみ方を広げていきたい。