『リトル・マーメイド』賛同と批判を生んだ、賛否両論のアリエルは果たしてアリかナシか?

概要

『リトル・マーメイド』は2023年に公開されたロブ・マーシャル監督、ハリー・ベイリー主演のロマンティック・コメディ映画。言わずとしれたディズニーの人気アニメーション映画『リトル・マーメイド』の実写化作品となる。

あらすじ・ストーリー

感想・解説

ここのところ、ディズニーがかつての名作アニメーションを立て続けに実写化している。『アラジン』『ライオンキング』『クルエラ』そして今作の『リトル・マーメイド』だ。

ディズニーと映画の関係を観ていると、つくづく映画の「ビジネス」という側面が目についてくる。

万人を楽しませるためのマーケティングと規制、それと同時にマイノリティにも配慮し、かつ作品としてのクオリティも平均以上にしていかねばならない。

過激な表現や、将来カルト映画化してしまうような作品はもってのほかだろう。

さて、今回紹介する『リトル・マーメイド』はその中でも多様性にとりわけ配慮した作品だと言える。

主人公のアリエルを黒人系の女優であるハリー・ベイリーが演じたのだから。

当然このキャスティングは旧来のアニメーション版のファンから激しい賛否両論を受けることになる。

ただ、実際に作品を観てみなければ本当の意味での賛否は言えないだろう。そう思って映画館に観に行った。

結論から言えば、想像していたほどのポリコレの匂いはしない。黒いアリエルもすぐに慣れることができた。
私自身がアニメの『リトル・マーメイド』にほとんど思い入れがないということもあるのだろうが、ハリー・ベイリーは容姿を除けばまさに完璧と言える。圧倒的な歌唱力や素晴らしい声質に演技、その全てがアリエルにふさわしいものだった(ルックスもツンとつり上がった形の目は好奇心旺盛で気の強いアリエルとよく似ている)。

また、ポリコレ的な配慮で言えば、王子であるエリックが王家の養子で、その養母が黒人である点も無理やりな設定だと批判を浴びたが、母と息子の性格的な差異や、エリックもまたアリエル同様に「閉じ込められている」状態であることを示すためには有効だったと思う。原作となるディズニーのアニメ版『リトル・マーメイド』ではアリエルは王子に一目惚れするが、実写版では同じ境遇に共感したことで王子に惹かれていくという設定だ。つまり、よりキャラクターの人間性が強調されている。

それなりの意味づけをして、『リトル・マーメイド』への現代版へのアップデートは成功と言えるのではないだろうか。

そして、素晴らしいストーリーはいつの時代にも不変だ。

恥ずかしながら、エンディングでは話がわかっていても涙ぐんでしまいました。

評価・レビュー

75

ポリコレとは別のところでの不満はある。なぜ人間界に憧れ、海の中の暮らしに飽き飽きしているアリエルが『アンダー・ザ・シー』をにこやかに歌うのか?などの矛盾はある。

「黒いアリエル」についてはそこまで拒否反応もない。むしろ様々な肌の色をした子どもたちの憧れになれば、様々な人種のアリエルがいてもいいのではないか。

映画館をあとにする時に、ハリー・ベイリーのアリエルのポップスタンドの前で、ポーズをする日本人の女の子を見て、私はそう思った。

そういうところから、偏見や差別もなくなっていくように思う。

作品情報・キャスト・スタッフ

2023年製作/135分/アメリカ

監督
ロブ・マーシャル

脚本
オリバー・ストーン

主演
ハリー・ベイリー
ジョナ・ハウアー=キング
ダヴィード・ディグス
オークワフィナ
ジェイコブ・トレンブレイ
ノーマ・ドゥメズウェニ
アート・マリック
ハビエル・バルデム
メリッサ・マッカーシー

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ロックミュージックに欠かせないエフェクター、OVERDRIVE。
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