『関心領域』はつまらない?面白くも楽しくもない映画だが、圧倒的に凄い作品

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概要

『関心領域』は2000年に公開されたジョナサン・グレイザー監督、クリスティアン・フリーデル主演のドラマ映画。

あらすじ・ストーリー

アウシュヴィッツ強制収容所の真横で暮らす、所長のルドルフ・ヘスとその一家。ある時、ヘスはアウシュヴィッツからの転勤が決まるが、妻は今の暮らしを手放したくないと反発する。

感想・解説

『関心領域』はここ数年で観た映画の中で最も辛い映画だった。ストーリーはあってないような平坦なものだ。原作の同名小説はストーリーももう少しサスペンス的な緊張感に満ちているのだが、本作はまるで家族のホームビデオを見ているかのような退屈さがある。

しかし、それもあえて演出されたものだということは映画を観ればわかる。

のどかな日々の生活音は、絶えず強制収容所の中の悲鳴や怒号、銃声に支配されている。

また庭から見える煙突の煙はユダヤ人たちを焼却処分した煙であるし、ヘス一家が遊ぶ川には時折ユダヤ人たちの遺灰が流れてくる。

ヘス一家の暮らしが満ち足りていて穏やかであればあるほど、その「音」とのギャップは胸に重くのしかかってくる。

しかし、ヘス一家の暮らしもまたホロコーストの犠牲の上に成り立っている。それは決して壁一枚隔てたくらいの断絶ではない。

ヘスの妻らの衣服はユダヤ人の遺品から奪ったものであるし、彼らの召使の女性は収容所の囚人だ(念の為に言っておくと、彼女はユダヤ人ではなく、エホバの証人であり、異教徒ということで囚人になっている)。

ナチス・ドイツではユダヤ人を殺しても罪にはならない。もし、法的に殺人が許された場合、人はどこまでも残虐になれるのだろうか?

差別が許された時に、その差別意識は殺意にまで無条件で成長していくものなのだろうか?

それまで「ユダヤ人をどう効率よく処分していくか」を考え続けていたルドルフ・へスは終盤にいきなり嘔吐する。

健康体だった彼が何故?

ヘスは1946年に逮捕されてから、ホロコーストへの後悔と罪悪感を述べている。

職務を離れてふと自分の仕事を見た時に、これほどおぞましい行為はあるまい。

その一片の良心がこの映画の数少ない救いのひとつだろう。

評価・レビュー

86点

『関心領域』を娯楽作として観た場合、今作は決して面白い作品ではない。

むしろつまらないと言ったほうが正確だろう。しかし、それらを追い越して余りある「残酷さ」が今作にはある。

ただのホロコースト映画ではない。

歴史を切り取った作品ではあるのだが、その切り取った歴史を私たちの方へ投げつけているような印象を受ける。

『関心領域』は恐らくホロコースト映画の中でも特に重要な一本になるはずだ。

大量虐殺の始まりは小さな差別意識だった。それと同じ芽を現代に生きる私たちは持っていないとはとても言えまい。

作品情報・キャスト・スタッフ

2023年製作/105分/アメリカ・イギリス・ポーランド
監督
ジョナサン・グレイザー

脚本
ジョナサン・グレイザー

出演
クリスティアン・フリーデル
ザンドラ・ヒュラー

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CINEMA OVERDRIVE

ロックミュージックに欠かせないエフェクター、OVERDRIVE。
それはクリーンな音に歪みを与え、それまでの音楽に新しい可能性をもたらした。
CINEMA OVERDRIVEもまた「個人的な評価」という歪みによって、映画の捉え方・楽しみ方を広げていきたい。