『トランセンデンス』は何故つまらない?映像と反比例するストーリーのひどさ

概要

『トランセンデンス』は2014年に公開されたSF映画。監督はクリストファー・ノーラン作品の撮影監督を多く手がけてきた ウォーリー・フィスター。主演はジョニー・デップが務めている。
タイトルのトランセンデンスとは「超越」を意味し、この映画ではAIが人間を超えることを意味している。

あらすじ・ストーリー

人工知能を研究しているウィル・キャスターとその妻のエヴリン。二人は人工知能が人間の頭脳を超えることをテーマに研究を進めていたが、夫のウィルは反テクノロジーを掲げるテロリスト、RIFTに狙撃されてしまう。
その銃弾には毒物が仕組まれており、ウィルは余命いくばくもない状態に陥ってしまう。瀕死の夫を救うために、妻のデヴリンはウィルの意識を人工知能にアップロードする。
当初は順調に見えたウィルの復活だが、やがてウィルはネット上の膨大なデータを吸収し、やがて暴走を始めるようになる。

感想・解説

本格的な人工知能の時代を迎えるタイミングで警報をならすかのように公開されたのが『トランセンデンス』。しかし、評価は概ね低いものに留まり、逆に警報を鳴らされてしまった感じは否めない。
確かにアイデアはいいし、ナノマシンが織り成す風景を描いた映像も鮮烈だ。

ただ、肝心のストーリーは決して褒められたものではない。
その最たるものがテロリストをあたかも正義の味方であるかのように美化してしまっているところだ。もちろん現実世界においてはテロリスト=絶対悪とは言い切れない部分もあるのだが、今作では主人公のウィルが亡くなる原因を作り、人工知能の研究所を爆破している。これは圧倒的に悪だ。
にもかかわらず人類の脅威となったウィルと戦うのもこのテロリストたちなのだ。ウィルの同僚だった男もテロリストと共闘してウィルに立ち向かうために、観客は誰にも共感し得ないまま物語が終わってしまう。

テロリストの側にはテロ行為が怪物を作ったということを自覚するとともに、それが自らの行為を省みるきっかけにならなければ観客は彼らに感情移入できないだろうし、同僚のはウィルを殺した組織となんの葛藤もなく協力関係になるのはいくらなんでも無理があるだろう。
それでいて最終的には夫婦愛を描こうとしているためにいったい何を本当に伝えたかったのかが中途半端で混乱している印象を受けるのだ。

せっかくナノマシンという設定で「ありうるかもしれない近未来の脅威」をリアルなものにしようとしているのに、肝心の物語がありえないことの連続で白々しくも感じてしまう。暴走したウィルを止めるための最終的な解決策も今の時代においてはあり得ない選択肢だろう。せっかくの題材なのに、素材の持ち味を壊すような料理を作ったとしか思えないのだ。

映像面では確かに一見の価値がある。
しかし、クリストファー・ノーランの名前を出して宣伝するのであれば、ストーリーの緻密さは必須だ。

残念だが、本作はとてもその域には達していない。

評価・レビュー

35点

AIとの闘いであれば、今までは『ターミネーター』に代表されるようなロボット型の機械が主だっただろう。この作品ではそれがナノ・ロボットに設定されている所にリアルさを感じる。
ナノロボットの描写も確かにノーラン作品の撮影監督だっただけあって、映像の美しさには目を見張るものがある。だが脚本はレビューで書いたように穴だらけである。
様々な感じ方はあるだろうが、映像は一見の価値がある。よってこの点数にした。

作品情報・キャスト・スタッフ

2014年製作/ 119分/アメリカ・イギリス・中国

監督
ウォーリー・フィスター

脚本
トッド・フィリップス
スコット・シルヴァー

主演
ジョニー・デップ
レベッカ・ホール
ポール・ベタニー
ケイト・マーラ
キリアン・マーフィー
コール・ハウザー
モーガン・フリーマン

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CINEMA OVERDRIVE

ロックミュージックに欠かせないエフェクター、OVERDRIVE。
それはクリーンな音に歪みを与え、それまでの音楽に新しい可能性をもたらした。
CINEMA OVERDRIVEもまた「個人的な評価」という歪みによって、映画の捉え方・楽しみ方を広げていきたい。