『ウォール街』多くのゲッコーを生み出した問題作

概要

『ウォール街』は1987年に公開されたオリバー・ストーン監督、チャリー・シーン、マイケル・ダグラス主演のドラマ映画。

本作には金融バブルであった1980年代後半のアメリカの状況と、オリバー・ストーンの個人的な思いが込められている。

あらすじ・ストーリー

若き証券マン、バド・フォックスは野心と成功欲を秘めて金融業界へ飛び込むが、実際の仕事は顧客に対し電話をかけ続けるばかりで、なかなか優良な顧客を獲得できずにいた。

そんな中、バドは有名な投資家、ゴードン・ゲッコーにアプローチをかける。強欲で冷酷なゲッコーはバドを軽くあしらって帰そうとするが、バドは父から聞いた父の勤める航空会社の内部情報をゲッコーに伝える。

これを機にゲッコーに気に入られたバドはゲッコーの手足として働く。

バドの父への説得もあり、ゲッコーはバドの父の航空会社を経営再建目的で買収するが、そこにはバドにも伝えてない、ゲッコーのある計画があった、

感想・解説

1980年代の名作と言っていいだろう。

当時「双子の赤字」とも呼ばれていたアメリカの財政赤字を解消するために大統領だったロナルド・レーガンは規制緩和と減税で市場を活性化させようとした。

その結果、アメリカの経済の中心は製造業から金融へとシフトしていく。

オリバー・ストーンの父も株の仲買業者を行っていたというが、実直であった父とは違い、当時の金融バブルの中では金儲けこそが正義であり、モラルは軽視されていた。

本作のゲッコーはまさにそんなキャラクターだ。「強欲は善だ」と公言し、企業をモノのように売買し利益を上げている。

が、ゲッコーにはアイヴァン・ボウスキーというモデルがいる。ボウスキーもまた「強欲は健全だ」と公言していた。

一方でバドの父親や上司であるルー・マンハイムにはオリバー・ストーンの父親が投影されている(ちなみにバド役はチャーリー・シーンが演じているが、バドの父親であるカール・フォックスを演じているのはチャーリー・シーンの実の父親であるマーティン・シーンだ)。

オリバー・ストーン自身も現実のウォール街の在り方について以下のように語っている。
「ウォール街は巨大化し、中にはとてつもない金額を稼ぎ出す人間が出現した。しかしそこで生み出された金が社会に還元されることはない。

その大きな利益が社会に貢献することはなく、自分たちの中だけで投資され、その中であらゆる活動が完結してしまってる。

銀行は、新しい企業に融資し、経済を活発化させるのが本来の仕事のはずだが、言ってみればそうした機能をすでに失ってしまっている。

ウォール街はアメリカの経済の中で意味のない存在となってしまった」

評価・レビュー

88点

今まで解説したようにオリバー・ストーンはあくまで当時の金融バブルを批判する目的で今作を撮ったのだが、実際はゲッコーに憧れて証券業界に入る者が後を絶たなかったというエピソードがある。

それほどまでにゲッコーのキャラクターは悪役でありながらも魅力的に過ぎる。

今作では「強欲は善だ」などのセリフをはじめ、多くの名言を残すなどその存在感は強烈だ。

2013年9月に安倍元総理はニューヨーク証券取引所で投資家達を前にこうスピーチした。
「バイ・マイ・アベノミクス」

これは「バイ・マイ・ブック(このリストは買いだ)」というゲッコーの台詞へのオマージュだろう。

実際のウォール街でスピーチするにあたっては『ウォール街』からの台詞はうってつけだったに違いない。

だが、強欲が許容された資本主義経済がもたらしたものは何か。40年近く経とうとしている今だからこそ、『ウォール街』は観る価値のある映画だ。

作品情報・キャスト・スタッフ

1987年製作/128分/アメリカ

監督
オリバー・ストーン

脚本
スタンリー・ワイザー
オリバー・ストーン

主演
マイケル・ダグラス
チャーリー・シーン
ダリル・ハンナ
マーティン・シーン
ハル・ホルブルック
テレンス・スタンプ

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CINEMA OVERDRIVE

ロックミュージックに欠かせないエフェクター、OVERDRIVE。
それはクリーンな音に歪みを与え、それまでの音楽に新しい可能性をもたらした。
CINEMA OVERDRIVEもまた「個人的な評価」という歪みによって、映画の捉え方・楽しみ方を広げていきたい。